第四部 自由という災厄
第十四章 偉大なる犯罪革命 - 一九九四年三月〜四月 -
<II>マフィア資本主義のビッグ・バン
◆万国の犯罪者よ、団結せよ!
(p.726−p.734)
全世界のマフィアに共通する主要関心事は、麻薬売買や恐喝など非合法な手段で手に入れたカネを、金融機関や企業への投資といったフィルターを通じて「合法化」することです。冷戦体制が崩壊して、ヒトモノカネの移動が自由化、ボーダーレス化したために世界中の犯罪組織はその活動範囲を文字通り全地球上へと広げることが可能となりました。
イタリアのコーザノストラやカモッラ、コロンビアのメデジンカルテル、カリカルテルを始め各国の組織犯罪グループは、急成長するロシアマフィアと手を組み、「万国の犯罪者よ、団結せよ!」といわんばかりに、治安が極度に悪化して無法地帯と化したロシアで過去には考えられなかったダイナミックなビジネスを展開しようとしております。無論、極東方面における日本暴力団とロシアマフィアとの結びつきも例外ではありません。
国際刑事警察機構に出向し、マネーロンダリング問題を担当していたドイツ連邦警察のクラウス・バイヤー氏によると、非合法な手段で稼いだ「汚れたカネ」を「洗浄」し、合法的な所得に見せかけるマネーロンダリングのプロセスは、
第一段階:非合法に入手した現金を預金化する。直接預金化が難しい場合は、カジノで交換するか、貴金属、不動産購入、外貨への交換を通じて預金化を図る。
第二段階:預金化されたカネをルクセンブルグやカリブ海諸島のオフショア・バンクへ移す。ルクセンブルグやカリブ海諸島には各国の大銀行の支店が存在するため、現地でオフショア・バンクから大銀行の支店へと預金を移す。
第三段階:大銀行の口座から、ホテル、不動産、その他ビジネスへ向けた投資が行われ、合法化が完了される。
を経て行われ、各国の警察が取り締まりが可能なのは第一段階に至るまでの段階で、第一段階を超えられると、取り締まりは事実上不可能となってしまうとのことでした。
通常、マネーロンダリングを行うと元金は50%くらいに目減りするのですが、共産主義体制が崩壊し、各種法律が未整備な当時のロシアで投資した場合は元金の3倍から4倍になって帰ってくるという恐るべき事態が発生していました。
その例として、米国では禁錮300年の実刑判決が下されており、スイスに居住しているマーク・リッチは、ロシアで数年前に「ノーベルオイル」という石油精製工場の合弁企業を設立しました。この会社は、石油コンビナートから排水を浄化処理し、排水中から分離精製された石油は輸出する権利を持っていたのですが実際は、コンビナートのパイプラインから石油を横流しし、海外へ売りさばいて年間4億ドルの利益を挙げていたのでした。
リッチのような外国マフィアがロシアに入り込むには、ロシアで仲介となる人物が必要でした。その仲介役となった人物はアルチェン・タラソフ。彼はペレストロイカ後初の億万長者にして数々のスキャンダルまみれでしたが大実業家兼ロシア下院議員にまで成り上がり、広く政界にコネをもっていました。
タラソフは元モスクワ市長のポポフ、ルシコフ、エリツィン政権のナンバー2であるブルブリス、ガイダル副首相ら改革派の他、保守派のチェルノムイルジンにまで多額のカネを通じて知り合いとなり、政界に広く影響力を保持し、外国マフィアとのつながりを持ち、彼らをロシアへと誘っていたのでした。
そして、タラソフのようなマフィア的実業家のことをロシアでは「ジェリツィ」と呼ばれ、ロシアにおけるマフィア資本主義の主人公であり、治安機関からは旧来のマフィアであった「ヴォル・ヴ・ザコーニュ」よりも脅威とされたのでした。
旧来のシステムが崩れると、政治利権、マフィアアングラ利権、外国利権… これらが結びついた「鉄のトライアングル」が混乱期には形成され、一大勢力を保つことを思い知らされました。
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