第2章 ロシアを見くびってはいけない
乳児死亡率の上昇から予見できたソ連崩壊
(p.81)

ーあなたは人口学的指標を通じて、様々な人間社会とその未来を理解しようとする学者ですね。ロシアは40年前から、あなたが好んで扱うフィールドの一つです。奇しくも今日、ロシアが再びヨーロッパを震撼させています。この現状をどう捉えているか、教えてください。

 1976年に、私はソ連で乳児死亡率が再上昇しつつあることを発見しました。その現象はソ連の当局者たちを相当面食らわせたらしく、当時彼らは最新の統計を発表するのをやめました。というのも、乳児死亡率(1歳未満での死亡率)の再上昇は社会システムの一般的劣化の証拠なのです。私はそこから、ソビエト体制の崩壊が間近だという結論を引き出したのです。(『最後の転落』)

 
 この研究は、トッド氏の原点です。
 1970年代半ば、アメリカがベトナム戦争の敗北で国力を大きく落とした一方、ブレジネフ政権下のソ連の国力は国際的に上昇したようにみえていました。この時点でトッド氏は旧ソ連の乳児死亡率が上昇し、当局が隠蔽した事実に着目し、まだ全盛期にもかかわらず「早くて10年、遅くても30年以内にソ連は崩壊する」と結論付けたのでした。
 1991年のソ連崩壊により、トッド氏のこの研究の正しさが証明されました。

 翻って日本の乳児死亡率ですが、東日本大震災、およびそれに伴う福島第一原発事故の発生にもかかわらず2015年現在は横ばいで、0.21%と世界的にみても大変低い値となっています(乳児・新生児の死亡率変移をグラフ化してみる(1899年以降版)(2015年)(最新):garbagenews.com)。この値が上がった/隠蔽した時は、確実に日本崩壊を示すものと考えられますので注視していきたいです。

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