第四部 自由という災厄
第十三章 「文明の衝突」の虚実 - 一九九四年二月〜四月 -
<II>咆哮する欧州極右の群像
◆「アウシュヴィッツの嘘」という嘘
(p.686−p.695)

前回に引き続き、「ドイチェ・ナツィオナリスト」党首のペトリーに対して著者はインタビューを行いました。今回は、主に自身の政策などについてです。

・自分たちは排外主義者、外国人への憎悪に燃える人種差別主義者と言われているが、外国人の家が放火され、女や子供が焼け死ぬのを見て気分がいいわけではない。そういう暴力は、一部のバカが暴走してやったことだ。

・我々が問題にしているのは、偽装難民や、この国で犯罪を犯す不良外国人のことだ。そういう連中に帰国してもらうのは普通の国なら当たり前だろう。日本だってフランスだって同じはずだ。どうしてドイツだと問題にされるのか。

・そもそもホロコーストは本当にあったのか。英国の歴史家デヴィッド・アーヴィングはホロコーストはなかったと言っている。また、死刑執行具製作のエキスパートである米国人のフレッド・ロイヒターは実際にアウシュヴィッツで調査を行い、ガス室の設備が大規模虐殺のものではなかったことを科学的に証明している。

・何より問題なのは、こういう議論がオープンにできないことだ。アウシュヴィッツについて発言しただけで刑法違反に問われ、裁判にかけられる。これが民主主義国家だろうか?

上記の活動をしている「ドイチェ・ナツィオナリスト」党首のペトリーは、中産階級の生まれで、親子関係も良好で、比較的恵まれた環境で育ちました。友人関係も良好な彼は特に学校で問題を起こしたことはなく、ガールフレンドもおり、彼女にはネオナチ女子部を担当させているということで、一般的なイメージである社会からはみ出たアウトロー的な人物が党首であるというわけではありませんでした。こういう人物がネオナチの党首なのです。

ドイツにおいて、「保守」と「極右」の線引きは、このアウシュヴィッツのホロコースト問題にあるようです。第二次大戦中に無政府状態で降伏したドイツの場合、戦後のドイツはナチとは一切関係ありませんということを国是にしていたことと関係しているように私は感じました。

また、ドイツにあっては「ホロコーストは嘘である」という講演会を開いた極右政党ドイツ国家民主党党首ギュンター・デッカートに対して、94年2月に最高裁判所で「ナチの人種イデオロギーの信奉者であるかどうかわからないため、公衆煽動罪にあたらない」と無罪判決を言い渡した時に世論と議会が即座に法改正を行い、史的事実を歪める公衆宣伝を行った場合、直ちに訴追できるようになったようです。

一方、アウシュヴィッツの虐殺人数総数については冷戦崩壊後にソ連にある資料をもとにすると、死者は450万人ではなく、150万人であることも判明し、ユダヤ人協会やポーランドのオフィシエンチム博物館もこれを認めています。

なお、ロイヒターの研究レポートについてはネオナチから資金提供を受けて製作されたこと、その後学者たちから内容そのものに対して、反駁をうけて間違いだらけの代物であることが判明しました。このロイヒターレポートの日本語訳を紹介した文藝春秋社の「マルコポーロ」は廃刊に追い込まれました。

 

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