第四部 自由という災厄
第十三章 「文明の衝突」の虚実 - 一九九四年二月〜四月 -
<II>咆哮する欧州極右の群像
◆ネオナチ「俺達ははみ出し者じゃない」
(p.680−p.686)

ドイツ当局から非合法認定され、地下に潜伏しているネオナチ組織のリーダーに面会するのはそう容易なことではありませんでした。著者はジリノフスキーの盟友であるDVU党首のゲアハルト・フライに面会を申し込もうとしましたがフライからは「プレスの取材は一切拒否」と回答されてしまいました。

そこで著者はフライを良く知る関係者に話を聞こうとしてあれこれ人脈を辿った結果、約300人のメンバーを有する「ドイチェ・ナツィオナリスト」のリーダーである、ミヒャエル・ペトリーと面会することに成功しました。

彼は22歳の若者で、13歳のときに極右活動に興味を持ち、フライと接触し、14歳で正式なDVU党員となり、16歳で地区代表を任されるようになりました。その後はいくつかの極右系組織を経て93年6月に「ドイチェ・ナツィオナリスト」を設立したのでした。

ペトリーに対して著者はインタビューを行いました。その概要を2回に分けてご紹介します。今回は、主に、DVUフライ党首の人となりについてです。

・フライ本人との直接のコンタクトは無いが、彼の息子とは今でも付き合いがあるので、フライの情報は息子経由で入る。フライが他の極右リーダーと全く違うのは、彼自身が億万長者の実業家である。

・他の極右リーダーの殆どはスポンサーがついている。スポンサーはだいたい元ナチス党員、ナチ・シンパの実業家達である。彼らは表に出ずに極右に資金提供している。勿論自分にもスポンサーがいる。

・DVUから離れたのは、フライの姿勢が気にくわなかったからだ。彼は政治に本気で打ち込んでいるのではなく、金儲けの手段として政治を利用している。良く売れる書籍や新聞を出す出版社や不動産も所有している。その上で党員から党費を徴収して出版物を買わせてしっかり儲けている。

・しかし、彼は党(DVU)に対して1マルクも出さず、資金を党に貸し付けているため党は慢性の赤字になっている。

・フライは自らの金を一銭も出さずにDVUの支部を設立しろと、ある党員に命じた。その党員は仕方なく自分の金(5万マルク)を負担して支部を開設したが、その功績に対してフライは党からの追放という形で報いた。

・ジリノフスキーと組んだのも選挙での売名行為だろう。ちなみに我々はジリノフスキーを評価していない。ロシアの政治家で唯一評価できるのはバルカショフだ。我々は彼らとコンタクトをとり続けている。

 

有力な極右勢力の代表が、極右思想はあくまでも「金儲けビジネス」の一環として使い、自身の懐には手を付けず、一般党員からお金を巻き上げている様子には私は大変驚きました。

また、大抵のネオナチには大口スポンサーがついており、そこから出資を募って党組織を維持するというスタイルであったということも今回初めて知りました。

日本においても、長期にわたる出版不況により一部の出版社が運転資金を稼ぐ目的で嫌韓、嫌中本を出版していることも知られています。今後の日本は高齢化社会に突入しており、昨今のマスコミ報道からは雇用を大量に生み出し、かつ世界に通用する産業の育成にはあまり上手くいっていないように思えます。

そこで、知恵は回り、少々お金があるけれども海外にまで行く勇気がない人が、新たな金儲け手段として「極右」「排外主義」をキャッチフレーズにした「政治団体」を使ってくる人が現れるのではないかと感じました。

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