第四部 自由という災厄
第十三章 「文明の衝突」の虚実 - 一九九四年二月〜四月 -
<II>咆哮する欧州極右の群像
◆ドイツで異邦人として生きるトルコ人
(p.651−p.658)
ドイツが統一されてから、ネオナチが荒れ狂うように広がりをみせました。その暴力の餌食にされたのはベトナム人、スリランカ人など外国人達でしたが、最大の標的は、約400万人の人口を擁していたトルコ人でした。
トルコ人移民労働者は戦後、西ドイツ経済の復興に多大な貢献をして来たのですが80年代になってから一転して「外国人労働者問題」として語られるようになってしまいました。西ドイツ時代はナチズムの反省に基づき、外国人の存在に寛容な国家の建設を目指していたのですが、統一後の92年には移民の流入を制限する法律が成立し、結果として外国人を排斥するネオナチの理念が一般に広がってしまうことになったのでした。
著者は、ドイツ国内でネオナチの脅威にさらされている、トルコ人協会のチャクマゴグル会長とインタビューを行いました。この概要を2回に分けて紹介します。
・ネオナチの急激な台頭は理由も無く発生した自然現象ではない。二度の世界大戦の敗北により狂信的な民族主義にはすっかり懲りたはずにも関わらず、ドイツ社会の一部には排他的・民族主義的な土壌が温存されてきた。西ドイツ時代には「民族戦線」「ドイツ民族党」など約90のグループが活動を続けており、ドイツ統一後はジリノフスキーの盟友であるゲアハルト・フライ率いるDUVのように合法政党として着実に勢力を伸ばしている。
・ドイツ統合時に、旧西ドイツのコール首相が旧東ドイツ住民に対し、経済がすぐに好転するような甘い幻想となる公約を振りまいた。統一後、旧東ドイツで失業率が高くなりその公約が時とともに実現困難とわかると、この問題から目をそらすために外国人労働者の問題を争点にした。
・ドイツには「シュラーゲンデン・フェアビンドゥング(結束と殴打)」という右翼秘密結社が存在する。この結社は1785年にドイツ統一をもくろむ各地の封建諸侯らによって結成された。この「結束と殴打」結社には、いくつかの極右秘密結社が下部組織として存在する。
・右翼秘密結社のメンバーは保守・中道勢力からネオナチまでドイツ政界に広く存在し、著名政治家も含まれている。しかし、そのことは一般には公開されていない。
ドイツにおける極右勢力(ネオナチ)の存在はヒトラー登場以降の比較的新しいものだと思っていたのですが、このインタビューからは大本は200年以上前の統一されていない時代のドイツにさかのぼり、今なお影響力を有しているという現実を初めて知りました。
現在の日本においても、海外から「極右勢力」と指弾されている「日本会議」に内閣閣僚の大半が属しております。この日本会議の大本となる思想は、江戸時代後期に本居宣長や平田篤胤らによって形成された「国学」に由来するなど、ドイツの事例と大変似通っているように感じています。
ドイツの場合は排斥対象はトルコ人でしたが、日本の場合は排斥対象は在日韓国・朝鮮人になっているところも似通っています。
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