第四部 自由という災厄
第十三章 「文明の衝突」の虚実 - 一九九四年二月〜四月 -
<II>咆哮する欧州極右の群像
◆ロシアに初めてあらわれた鉤十字を掲げるファシスト
(p.620−p.629)

ロシアにおいてはジリノフスキーが選挙で台頭しましたが、80年代末から90年代初頭にかけて、旧東ドイツでのネオナチ、フランスではル・ペンを党首とする国民戦線、オーストリアでは排他的ナショナリズムを掲げるイェルク・ハイダー率いる自由党が最大野党の座を確保し、そしてイタリアでは94年に右翼のベルルスコーニが首相となるなど、欧州において過激なナショナリズムを主張する、いわゆる極右系の政治勢力が台頭し始めました。

ロシアは、第二次大戦でドイツとの戦争により2000万人もの人命が失われ、ドイツ「ファシズム」の最大の被害者と言えます。「ナチス」「ファシスト」はロシアおよび旧ソ連圏において最も人を侮辱する言葉とされており、ジリノフスキーでさえも「ファシスト呼ばわりする奴は許せない」というほどです。

そのロシアで、ハーケンクロイツをシンボルとして掲げた「ロシアの民族統一」という政党が現れました。党首バルカショフは、80年代後半にロシア民族主義者を看板とした『パーミャチ』(実はこれもKGBの工作によって設立されたダミー団体!)を創設後、独立して「ロシアの民族統一」を設立したという人物です。に取材をおこないましたので、そのインタビューの概要を2回に分けてご紹介します。

・私は10月事件に参加したため指名手配されていたが、93年12月19日の夜中、町外れを歩いていたらいきなり走行中の車から狙撃され、病院に担がれたのちに入院先で警察に逮捕された。撃った犯人は迷宮入りとなるだろうがおそらくKGBではないか。

・ペレストロイカ以降、従来は禁止されていた空手道場を開くことができた。私は空手のキャリアは20年、松濤館流と剛柔流の二段をそれぞれ持っている。日本人の民族精神と歴史的伝統を大変尊敬している。民族精神のない国はダメだ。空手道場では、できるだけロシア人を集めるようにし、弟子にロシア民族精神の重要性を説いている。

・党の政治目標は、ロシア民族国家の復活である。ロシアをロシア民族の手に取り戻すことだ。ロシア民族は、1917年以来、自らの国家を持っていなかった。ボリシェビキは権力を奪取したのち、ロシアを憎むイデオロギーを吹き込み、ロシア民族に対するジェノサイドを続けてきた。ロシア民族はかつては物理的に、そして今は経済的に殺され続けてきているのだ。

・ジリノフスキーは支持しない。なぜなら彼はユダヤの血を引いており、ロシア人の伝統的な思考、行動様式にそぐわない振る舞いをするからである。彼はロシア民族を代表することはできない。彼の外国での言動は馬鹿げている。彼はロシア民族主義を歪曲、侮辱し、評判を貶めている。

・私は人種差別主義者ではないが、ロシア民族国家復活を妨げる国際ユダヤ資本とユダヤの政治ロビーとは断固として戦う。アメリカはユダヤ資本の根拠地の一つであり、レーニン、トロツキー、カガノヴィッチなどボリシェビキ初期の指導者は皆、ユダヤ人かユダヤ系であったことは広く知られている。

・エリツィン政権も同様で、エリツィンの婦人はユダヤ人、顧問官やブレーンにユダヤ人が付いていることが多い。元KGB第一局に相当する諜報局局長を務めているプリマコフも結婚するまでは、キリシブラッドというユダヤ人由来の名前を名乗っていた。彼が諜報局長に就任してから突然、我が国のスパイが外国で次々と逮捕、追放された。コーズィレフ外相もユダヤ人であり、彼の時にロシアにとって不利となる貿易協定に次々と署名した。

 

以前に紹介したジリノフスキーの主張や、今回紹介した内容をみると、プーチン政権が長期間にわたってロシア国民の支持を集めている理由(ロシア人の伝統であるロシア正教を保護したり、革命や新政権発足当初に居座った「非ロシア人勢力」を強制捜査や国策逮捕などで追放する政策をとった)がよくわかりました。

また、ロシアにおいては政党や政治団体が実はKGBによってあらかじめ作られていたという事実に改めて驚きました。

なお、この主義、思想をロシアの部分を日本に置き換えると、今、ネットで流行っている「保守思想」へと様変わりしてしまうことにも気づきました。混乱期に突入すると、自身の過去や伝統に振り返ろうとする動きが強まることは世界で共通のようです。

これから日本も気候変動や財政悪化で混乱期に突入しています。この時に何かを始めるなら、まず、自分が過去に何を行い成功してきたかを振り返ることが有効そうです。

 

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