第四部 自由という災厄
第十二章 ジリノフスキー現象を読み解く - 一九九三年十二月 -
<II>道化と超能力者のデモクラシー
◆KGBが仕掛けた無制約のマインド・コントロール
(p.591−p.599)
前回は、カシピロフスキーのテレビ放送を通じたマインドコントロールについてご紹介しましたが、カシピロフスキーによるマインドコントロールのレベルはどれほどのものかを確認するため、著者は、カシピロフスキーと面識があり、彼について研究したことがあるモスクワ大学元教授 心理学博士ヤロシェフスキーに取材を行いました。
「カシピロフスキーの方法自体は、18世紀にヨーロッパで一世を風靡した催眠術師のメスメルと変わらない。催眠術自体は精神医療の現場でも一般的に用いられており、精神科医が行う場合は1対1であるため適切な措置が取れるが、カシピロフスキーの場合はソ連全土の不特定多数の人に対して行っているためその影響の大きさは気が遠くなるほどである」
「カシピロフスキーがジリノフスキーと結びついた理由はわからないが、『あなたは健康になります』という言葉は、後催眠効果を与えるパスワードである。催眠術に「はかかりやすい人とかかりにくい人がいるが、かかってしまった人にはパスワードによって再度の暗示効果が与えられる。」
「選挙宣伝ビデオではこのパスワードと、ロシア自民党へ投票を呼びかけることが一体となって続いており、その結果が『ジリノフスキー現象』である」
ジリノフスキー自体、KGBの工作員であったことが判明しています。
選挙資金をKGBから提供されたこと、ロシア自民党の設立自体、90年にゴルバチョフ書記長は政治局の会議で「多党制の時代が到来するのでこうした事態に先んじて、我々がコントロールできる政党を、我々自身の手で最初に設立しなくてはいけない」と演説し、詳細はKGBに託されていたのです。
さらに、KGBは大衆のマインドコントロールに関して大々的に研究しており、カシピロフスキーのテレビメディアへの登場は80年代末期からでした。80年代末期はまだソ連共産党中央委員会の統制下におかれていましたので、許可なく影響力を振るうことは困難でした。
つまり、ジリノフスキー、カシピロフスキーは両名ともKGBの影響下にあり、ロシア自民党自体もKGBが作った政党でありました。したがって、ロシア国民は「民主的選挙」を通じて投票したはずが、実はKGBによってコントロールされていたという恐ろしい実態が明らかとなったのでした。
なお、ヤロシェフスキー氏は面会時点で病弱で、生活に困窮している有様でした。外貨や物資を手に入れられるルートを持っていないと、どんなに頭が良くても混乱時にはヤロシェフスキー氏と同じような目にあってしまいます。
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