第四部 自由という災厄
第十二章 ジリノフスキー現象を読み解く - 一九九三年十二月 -
<II>道化と超能力者のデモクラシー
◆ロシア版「テレ・ポリティクス」の破壊的威力
(p.581−p.591)

ロシアの民間シンクタンクである、モスクワ政治宣伝センターの所長を務めるアレクサンドル・ポポフ氏は今回の選挙キャンペーンに関して分析してみた結果、ジリノフスキー陣営だけが、効果的にテレビを活用したプロフェッショナルのキャンペーンを行ったことが判明しました。

調査はモスクワ市を筆頭に主要7大都市において、人口動態カテゴリー(年齢、民族、職業など)に沿い2000人のサンプルを取り、1回目は選挙運動開始直後の11月21日、2回目は選挙運動終盤の12月1日に実施しました。

与党「ロシアの選択」は、1回目の調査結果では支持するという回答が18.5%と元々高くない上、2回目の調査結果では支持するという回答が15%と減少しました。

また、ヤブリンスキー連合、ロシア民主改革運動、ロシア統一調和党の3党の「民主的野党ブロック」は、1回目の調査結果では合計36%の支持を集めていましたが、2回目の調査結果では18.5%に急減してしまいました。

一方、ジリノフスキー率いるロシア自民党は、1回目の調査ではわずか4%の支持と主要政党で最低の数値を記録していましたが、2回目の調査では23.5%の支持とダントツトップで、「民主的野党ブロック」の減少分がほぼそっくりそのままジリノフスキーの自民党に流れこんだことが判明しました。

ロシア自民党は

・ジリノフスキー氏による、ターゲットを絞った内容の個人演説と政権に対する明快な批判
・カシピロフスキーの「ビデオクリップ宣伝」

の2つに徹底的に集中して注力しました。

カシピロフスキー氏の「ビデオクリップ宣伝」は、「喘息で苦しんでいるのだがテレビ療法で完治しました!」「甲状腺種で手術を要するレベルでしたがテレビ療法を受けたところ甲状腺種が消えました!」など、いわゆる怪しい健康通販での治療効果のような感じです。

特筆すべきは放送中に「リラックスしてください、目をつぶりたい人は目をつぶり、体が動きだす人は逆らわずに動かしてください。あなたは健康になります」というメッセージとソフトミュージック、環境映像を流し、最後に「ジリノフスキーの自民党に投票してください」と、見る人に一定の暗示をかけて、奇跡を信じさせる方向に誘導する大規模マインドコントロールプログラムになっていたことでした。

 

これは日本では明らかに放送コードに引っかかる内容ですが、これがロシアでまかり通って大きくジリノフスキー氏が躍進したという事実を目の当たりにすると寒気がしてきました。

世論を誘導できるメディアの力は恐ろしいと思いましたが、同時に、アレクサンドル・ポポフ氏のように一歩引いて、具体的な数値をもとにして客観的な冷静な視点で物事を分析できるようになりたいと思った次第です。

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