第四部 自由という災厄
第十二章 ジリノフスキー現象を読み解く - 一九九三年十二月 -
<I>ファシズムという名の「希望」
◆「ジリノフスキー現象」が映し出す<新しい現実>
(p.566−p.576)
先日ご紹介したロシア自民党による選挙前調査結果についての分析です。
ジリノフスキー氏が有権者に訴えたスローガンは
第一に、外国に対する援助の停止。借款も補助金も与えず、取引はすべて国際価格で行う。
第二に、軍民転換をやめ、世界市場への輸出のために兵器生産を奨励すること。
第三に、治安機関を強化し、汚職とマフィアを撲滅すること。
と、単純明快で、これを1つでも実行すると経済力は30%回復するのだと唱えていました。
「経済援助の停止」については即刻停止/大幅に減少すべきと回答した層は合計66.5%にのぼりました。
「軍民転換の停止」については、YES:40.5%、NO:33%、回答困難:26.5%と割れていましたが、軍人階層では73%がYESであった一方、底辺労働者階級では最もNOの割合が高い結果になりました。
そして、「マフィアの撲滅」については82.5%があらゆる手段で戦うべき/法律を遵守して戦うべきと回答したのでした。
これに関連し、カフカス方面の「南のマフィア」に関し、ロシアに居住地を持たない南の国籍の人すべてを即刻退去させるべきか、テロリストとして裁判にかけるべきか、カフカスとロシアの国境に検問所を導入すべきか、という設問を設けたところ、いずれもYESが64〜79%と高い支持を受けていました。
なお、底辺労働者に関してはすべての回答について「回答困難」と回答した層が最も高く、政治や経済など複雑なテーマは考える力が無さそうであることが窺い知れました。
ジリノフスキー氏率いるロシア自民党の支持者は、高等教育を受けている30〜50代の男性で、職種、社会階層は指導的地位にある人物から農民まで多岐に渡っているが軍人では支持率が高く、また、党員についてはホワイトカラーとエンジニアが40%、学術関係者が10%と、主に知的階層が主体となっていることがわかりました。
つまり、ジリノフスキーのアジテーションに呼応したのは、パンを求める底辺労働者ではなく、連邦が崩壊して国家の威信に傷ついたことに憤慨し、パンの問題以上にマフィアや強盗集団に生活の安全を脅かされていることに怒りを感じており、考える力がある中堅層であることが明らかとなりました。
ただし、実際に戦争が発生しかねない危険な政策は拒否反応を示しています。たとえば「ロシア政府は歴史上ロシアの土地であったクリミア、北カザフのヤイツキーなどの返還を目指すべきか」というアンケートの設問では「各地域レベルで合意を求め、それぞれに相応した立場で問題を解決すべき」という常識的な回答が35.5%と一番多く、「あらゆる手段を講じて解決すべき」という回答は10%にすぎませんでした。
こういう調査結果をもとに、ロシア自民党は投票直前にテレビ放映の枠を買い取り、誰に対して語るかをはじめにはっきりさせ、各階層別に支持されているテーゼを強調し、細かくアピールするべき点を個別に決めて放送で語りかけました。
他の政党もテレビ放映枠を買い取り、政見放送を長時間放映しましたが、このロシア自民党の調査結果をもとにした徹底的な戦術の前には全く太刀打ちできない結果となりました。
ジリノフスキー現象は、日本でも昨年の東京都知事選挙において田母神氏が支持を集めたように決して無縁ではありません。というか、ジリノフスキー現象を分析すればするほど、支持階層も政策も田母神氏のときに似ていると感じた次第です。
昨日も申し上げましたが、ジリノフスキー自身は欠点だらけですが、政策について事前に詳細に長所と欠点を洗い出し、欠点を隠しつつ長所を生かすように訴えたため勝利したと私は考えています。このことを実生活に生かすならば、親友に自身の長所と欠点を客観的に言ってもらって自分の行動を修正するのが大事であるということでしょう。
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