第四部 自由という災厄
第十二章 ジリノフスキー現象を読み解く - 一九九三年十二月 -
<I>ファシズムという名の「希望」
◆ロシア自民党の機密文書を読む
(p.555−p.565)

ジリノフスキーは以前ご紹介したインタビューで、「日本とドイツへ原爆を投下する」「日本が北方領土を要求するなら逆に北海道を占領してやる。米国が介入してきたら米国とも戦争だ!核戦争、やってやろうじゃないか!」などと過激な発言をしていました。

しかし、そういう過激な発言をしている人物が率いるロシア自民党は、実質モスクワ本部しかなく地方の選挙区では候補者が立てられないミニ政党にすぎなかったにもかかわらず、テレビ演説だけで比例区第1位の政党となってしまいました。

ジリノフスキーは反ユダヤ主義的・排外主義的な言動を重ねていましたが、その出自はユダヤ人であることが暴露されたり、KGBの工作員であったこと、そしてジリノフスキー率いる自民党は、”1990年にゴルバチョフが来るべき複数政党時代に備え、コントロール可能な擬似野党を創設する必要があると考えられ、政治局会議で提案され、作成された”という爆弾発言まで飛び出したのでした。

さらにロシア自民党の資金源は、KGBからの秘密工作資金、亡命ロシア人を経由したマフィアからのアングラ資金、旧東ドイツ社会主義統一労働者党からの秘密資金など、出所の怪しいのが特徴でした。

ロシア自民党、ジリノフスキー自体がかなり怪しい人物でしたが、どうして躍進したのでしょうか?この秘密は、ロシア自民党が独自に選挙前に実施した「世論調査結果」にありました。この概要を抜粋します。

<調査手法>

・インタビュー形式

・調査対象:モスクワを含めた9つの大都市住民の1850人、男女別、年齢別(4階層)、職種別(サラリーマン、労働者、指導者、軍人など7区分)、学歴別(大卒、高卒、中卒)に層別解析が可能になるようサンプリング。

・質問項目:ロシア自民党の綱領、ジリノフスキーの論文と演説内容(※ジリノフスキー、ロシア自民党は伏せて提示)を元に、政治、経済など71項目。

<調査結果>

・ジリノフスキーは「全体的に否定的」な印象を抱いている人が68.5%と図抜けて高く嫌われており、報告書でも「ジリノフスキーに対する個人的得点は現在極めて低い」と結論づけられている。

・しかし、ロシア自民党の主張する政策は国民に幅広く支持されている。

・「経済改革は上から計画的に国家により実施すべき(ロシア自民党政策)」:「YES」52.5%

・「経済改革は価格自由化はショック療法で行うべき(エリツィン大統領政策)」:「YES」15%

・「ロシアの歴史的経験を大事にすべき(ロシア自民党の政策)」:「YES」82.5%

・「ロシアは自分の道を歩むべきで、議会制民主主義や資本主義を目指す試みをやめるべき(ロシア自民党政策)」:「YES」51%

 

ここにジリノフスキー現象の正体を見た思いがしました。混乱がひどくなると、国民生活が苦しくなるので自分たちの伝統や足元に立脚した方法で打開していこうという声が強くなるのです。そしてその「国民の声」を事前に科学的に分析、入念な対策を立ててしまえば、指導者はトンデモ発言を繰り返しても、政党の金は出所が怪しくても、政策自体は支持されるので選挙に勝てるということなのです。

ここから教訓を汲み取るとすれば、他人や友人に自分の長所短所を客観的に分析してもらって、アドバイスをうけ、それに基づいて行動を変えられるかどうかだと思います。

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