第三部 権力のはらわた
第十一章 不和の林檎は投げられた - 一九九二年十二月 -
◆武器流出の戦慄
(p.506−p.518)

ソ連邦と共産党の消滅によって無秩序な兵器の拡散が始まりました。
著者は取材中、ロシア人記者から誰でも立ち入れる野ざらしの野原に、大量の152mm榴弾砲が無造作に置かれている写真を見せられました。しかし、このロシア人記者から”これは明らかに平野だが「武器格納庫」なのだ。放りっぱなしで誰も監視していないので盗み放題だ”と写真の説明を聞いて驚愕しました。

武器拡散はいたるところで広がっており、ガイダル副首相によるショック療法で価格統制が撤廃されたために、ハイパーインフレとなり、少しでも大金が欲しいために小火器を闇市で販売するのは、この時期(92年10月)では当たり前の出来事となってしまっていたようです。

「スクラップ」と称してえらく状態が良くグリスも塗られていて整備されているT−72戦車が大量に貨車で運ばれていたり、ワイロさえ積めば国内旅客機にも持ち込んで輸送することも簡単にできたようです。

こういう武器流出を抑えようと、KGBの流れを組む保安省の職員たちは頑張って取り締まりを行ったり、実態の報告書を挙げたりしましたが全く功を奏しませんでした。

著者はこの武器流出の実態を調査すべく、保安省に取材を試みましたがはぐらかされてしまいました。そこで以前ご紹介したロシア軍を再編するための改革派「楯」のメンバーに取材を試みましたが、「この問題には深入りしないほうがいい。外国人であっても消される可能性がある」と警告されてしまいました。

改革派「楯」のメンバー曰く武器の非合法拡散のレベルは3つあるとのことでこの概要を紹介します。

・第一のレベルはトップクラスの権力者が関与しており、売買される武器のロットが桁外れに大きく、取り扱われる武器の質も極めて高く、国際的な取引となることもあり、ほとんど表沙汰にならない。

・第二のレベルは、中堅クラスの権力者たち、汚職官僚や軍の将校が絡んでおり、主としてカフカスや中央アジアなど、旧ソ連領内の紛争地帯を市場にしている。

・第三のレベルは、末端の軍人やマフィアや闇商人たちが、小ロットの盗みや横流しを行うケース。数としてはこれが最も多く、表沙汰になりやすい。

・第二レベルの例は、ハンガリーに指令部がある南方軍司令官ブルラコフ大将は、ソ連崩壊に伴う東欧諸国撤退の際に出た余剰兵器を売って大儲けし、その金はワイロとなり本国のソ連軍首脳に回り、そしてその「手柄」を認められて、最優秀装備が配備されているドイツ駐留の西方軍司令官と就任した。そこで大量売却をしてさらに大儲けを出している。そしてそれらの兵器がカフカス地域で政府側、反政府側に「公平に」行き渡って紛争激化の一因となっている。

 

ウラジオストクにある弾薬庫の爆発事故は日本でも大きく報道されましたが、それも「第二レベル」の武器拡散レベルで失敗して露見したというものだったそうです。

近年、米国でも財政難の影響で米国内で在日米軍の撤退についても議論されています。米軍の武器弾薬、装備品については世界各地で流出している上、日本には相模原と沖縄に米軍内でも有数の巨大な補給廠があるため、米軍の削減や撤退にあわせて米軍火器の横流しもありそうに感じています。

 

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