第三部 権力のはらわた
第九章 ロシアは独裁者を待っている - 一九九二年三月 -
◆ジリノフスキー-「文句があるなら北海道を占領してやる!」
(p.425−p.437)

先に紹介したヤコブレフ氏によると、ジリノフスキー氏はエキセントリックな言動で知られ、良識のあるロシア人の間では論評に値しない、という評価でした。

しかし、ジリノフスキー氏は、かつては一介の弁護士にすぎませんでしたが、91年6月のロシア大統領選挙に出馬した時、エリツィン、ルイシコフについで第3位の得票数を稼ぎました。

そこで、著者は、ジリノフスキー氏に日本マスコミで初めてインタビューを申し込み、成功しました。

ジリノフスキー氏の政策概要は以下の通りです。

・ロシア自由民主党は、民主主義者でもなく、共産主義でもない、第三の勢力を代表する。民主主義者との違いは国の分割に反対していることと、経済改革を、かつて旧ソ連が国家として外国に貸し出しをした債権を即座に取り立てて返してもらう。共産党は無償で与えたが、ソ連が国家として与えた援助は有償である。西側から借りている債務は返さず、利子支払いをストップする。

・我々には金がない!貸した金は1億ドル、借りた金は7,000万ドルであり、債務支払いをやめ、債権を取りたてれば1億ドルが丸々我が国に入る。ロシアには人材も天然資源も豊富にあるので、この金を用いて経済改革に成功させる。

・共産主義者は70年にわたり権力を握り、その結果共産主義では国家を正しく統制できないことを立証した。私は政治でも経済でも多元主義を訴え、その点は民主主義者と同一だが、民主主義者は国家を破滅に導こうとしている。

・我がロシアの領土は数千年にわたって築き上げられたものであり、絶対に譲り渡すことはできない。旧ソ連から独立した共和国に対しては断固経済政策をかける。一方、カフカス地方に関しては永遠の紛争地帯なので互いに互いを殺し合いさせ、ロシアは放棄する。

・日本との関係については、平和条約を締結し、貿易を拡大する。ただし、北方四島(南クリル)は絶対に返さない!なぜならロシアで政権を握るものは、領土を手放すことをしない。もし手放したらせっかく手に入れた権力を失うからだ。もし、平和条約を締結しないなら戦争であり、日本が抵抗するなら北海道へ上陸、占領してやる!

・KGBが背後についている、という噂については全くの無関係である。しかし、私はKGBが大好きで、軍隊、治安機関は強力な国家の基盤なので大好きである。また、私の支持者はKGB、軍隊の中だけではなく、強い指導者を待ち望む一般の民衆の中にたくさんいるのだ!

 

その後、ロシアの自由民主党は党勢を拡大し、2015年現在もロシア下院で450議席中56議席と、一定の地位を占める政党として成長しました。

また、政策の内容からすると、日本においては次世代の党の立ち位置が、ロシア自由民主党に近いと感じました。今は次世代の党の党勢は衰えていますが、経済状態のさらなる悪化によって実際は維持できないにもかかわらず「強い日本」を求める人々が増えるのではないかと考えています。

なお、ジリノフスキー氏が否定したKGBとの関係については第十二章で紹介します。

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