第二部 青ざめた異族
第五章 グルジア 血と蜜の流れる土地 - 一九九一年十月 -
◆大統領の乱心
(p.245−p.253)
ガムサフルディア大統領は、当時経済危機に陥っていたグルジアを支援するために、全欧会議の調査団代表の訪問や、ユダヤ人を迫害しなかった歴史を持つグルジアに対して好印象を持っていた世界ユダヤ人会議代表団の訪問を相次いで断りました。
さらに、アメリカのクエール副大統領一行が9月に訪問、会談が予定されていましたが、その直前に「米国民は素晴らしいが、ブッシュ大統領の政治姿勢には問題がある」という友好関係にわざわざ水を差すような大統領の声明を、シグア首相(当時)にも内容を一言も話さずにいきなり新聞で発表しました。
実は、この声明を出したのには理由があり、アメリカ側は水面下で「グルジアの独立承認をするために大統領側と反政府勢力側の双方に対し、和解を呼びかけ、民主主義と人権が守られるように求める」という勧告文書が渡されていたのですが、ガムサフルディア大統領はこれを拒否し、米国との外交樹立は必要ないと回答したのでした。
そして、経済状況が苦しい最中で、グルジアのアエロフロートが稼いだ貴重な50万ドルの外貨(これはソ連中央に支払う必要があった)を自分の家族のためだけに20万ドルのベンツを2台購入していたのです。
とにかく、不必要なまでに外国と敵対姿勢を貫き、国民に苦しい生活を強いながら自分はちっぽけな独裁者気取りで大統領特権を乱用していました。
ガムサフルディア大統領には、実はKGBのスパイではないかという疑惑が持ち上がっていました。
最大の傍証は、民主主義を体現した共和国の独立を本当に果たすならば、8月クーデターが発生した時にバルト三国がとったようにクーデターに対して批判声明を即座に出すべきでした。
しかしガムサフルディア大統領が行ったことは将来の共和国軍となるはずの民兵軍を解散させたり、全ての市長制の廃止を求める文書に署名するなどクーデター政権に対して全面的に容認、恭順していたのです。
ガムサフルディア大統領の振る舞いは、福島原発に関する事項で国内と外国とでまるで異なる意見を表明したり、真に必要と思われる支援を妨害する今の日本の状況を思わずにはいられませんでした。
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