第二部 青ざめた異族
第五章 グルジア 血と蜜の流れる土地 - 一九九一年十月 -
◆二つのキスの間に
(p.232−p.245)
かつてガムサフルディア大統領の盟友で、その後袂を分かち反政府勢力側に回ったシグア元首相とインタビューすることに成功しました。
シグア元首相ガムサフルディアと袂を分かつことになったのは、以下3点の理由がありました。
1つめは、グルジアは優れた知識人を輩出してきた土地であり、混乱期を乗り切るために適切と思われる人物がいました。にもかかわらずガムサフルディア大統領は責任ある政府高官のポストに、自分に忠実に働く低い教育水準の人物を次々と任命し、混乱を招いたことでした。
例えば商業大臣にはグルジア国内にいる6人の経済学博士と2人の准博士がおり、その中から選ぶのが適当であったにもかかわらず、建築技師のグベリシアーニを選び、経済政策に失敗して更迭した上に逮捕命令を出したのです。
2つめは、ガムサフルディア大統領は言語学には長けていましたが、経済は全くの素人でした。自分では経済がわからないにもかかわらず経済政策に対して干渉して大混乱を招きました。
グルジアの農産物や軽工業の原料はほとんど他の共和国から輸入されていましたが、91年春にだれにも相談せずに突如鎖国を宣言し、鉄道や道路、港湾を封鎖して深刻な食糧不足や工業生産の麻痺を招きました。
さらに、物価が高騰していく最中、ガムサフルディア大統領は選挙に当選するための人気取りの政策で選挙が近かったためパンの価格を従来の1/3まで下げました。
その結果、闇商人が大量に買い付けて近隣の共和国へ密輸するようになりました。さらにパンの価格は1kgあたり0.4ルーブル、家畜飼料の1kgあたり1ルーブルよりも安い価格のため、農民は家畜の餌にパンを与えるようになり、品不足となってしまいました。
そして、3つ目はガムサフルディア大統領は独裁体制を築き上げたいという欲望があり、自分に対して少しでも異を唱えるマスコミは報道や出版禁止し、自身に都合がよい情報だけを流す情報統制を行っていました。
こういうめちゃくちゃな環境では、人々は闇の密輸に携わる形で生き延びざるを得なかったのではないかと推測します。
また、著者はかつて空手を学んでいたことがあり、インタビューを申し込む際に「自分は多少空手ができる」と紹介したところ、見張りのグルジア人民兵が「ぜひ教えてくれ」ということで空手のコーチを条件に快諾してくれたというエピソードがありました。
そのため、混乱期にはかつて自身が学んで実践できたことを、今一度思い起こして実演すると思わぬところで道が開けるのではないかと感じました。
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