第一部 ロシア零年
第四章 マフィアのために人道援助を - 一九九二年四月〜五月 -
◆そしてシステムだけが残った
(p.185−p.198)

役人が大規模な汚職を行わっていたのはソ連崩壊から数年前のことで、ブレジネフ書記長が死去し、アンドロポフ書記長が就任したときになってようやく捜査のメスが入れられました。

83年当時、モスクワ市内の最大の食料品店「エリセーエフの店」の店長ソコロフが逮捕され、その膨大な捜査データをもとに、ソ連検察庁最高検事の一人であったオレーニクは彼の指揮のもと、200人からなる空前の規模の捜査官のチームが編成されました。

捜査を進めていくにつけ、国営商店の店長クラスが差し出した賄賂は、市町村レベルから各地方の党官僚、さらに共和国レベルから、最終的にモスクワ政治局の最高指導者にまで必ずたどり着いてしまうことで、これは、捜査の起点がモスクワであれ、ウズベクであれ、最終的な追及先が共通してしまう汚職のピラミッドが完成していたことです。

モスクワ市内の「エリセーエフの店」から端を発した汚職事件では、750人が逮捕される予定でしたが、捜査の進捗を上司に報告すると、その情報が最高幹部へと漏れ伝わり、最高幹部からの横槍が入って捜査妨害や証拠隠滅が頻繁に発生、結局その事件では150人しか逮捕されませんでした。

アンドロポフ書記長が死去後、アンドロポフの路線を引き継いだとされるゴルバチョフが書記長に就任したときは汚職が撲滅できると期待していたが、継続中の捜査に対する妨害は止むことがなく、逮捕した人たちも次々と釈放されてしまい、汚職ピラミッドの根絶はできなくなってしまいました。

そして、ソ連が崩壊した現在は、この汚職官僚マフィアは再生し、かつてよりも強力な権力をもつようになり、横領や汚職が横行するようになってしまった、とソ連検察庁最高検事の一人であったオレーニク氏は語っていました。

政治が崩壊したことによって、アングラ勢力が大手を振って政治力を発揮してやりたい放題やっていたことに慄然としました。

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