第一部 ロシア零年
第四章 マフィアのために人道援助を - 一九九二年四月〜五月 -
(p.167−p.176)
前回、ドイツからの援助物資が横流しされたことについてご紹介しましたが、そのドイツでは様々な対策を試みていました。
まず、医療従事者や援助物資を配布するロシア人による物資横流しについては、患者のための薬品や医療品だけでなく、生活が苦しい医療従事者や配布するスタッフに対しての援助物資もあわせて送るようにし、援助に関しては相互信頼が原則であるロシアの赤十字社(赤新月社)をはじめ、ロシアの関係機関を一切信頼せず、援助物資を送る最後の段階まで可能な限りドイツ人自らがコントロールすることで横流しを防ぐことにしました。
次に、ソ連の場合はエチオピアやソマリアのように絶対的な窮乏状態ではなかったため、物不足といってもある程度の物資は自由市場や闇市場で流通していました。そのため貧困層への支援は物よりもカネで渡したほうが有効であることに気づきました。
そして最後に、物資の援助はその場しのぎにすぎないため、根本的に打開するには具体的なプロジェクトに伴う金融支援や教育支援を継続的に行う必要があることでした。
例えば、注射器の援助の場合、注射器の製造工場のための資金とノウハウの提供のほか、経営者や技術者を教育する、という具合です。
ドイツが得たこれらの教訓はその後、EC(EUの前身)による支援で大きく生かされました。
しかしながら日本はドイツの苦い教訓と対策から何も学ばなかったようで、ドイツ赤十字社のワイエンツ氏からは、「独立心旺盛なのは結構なのですが、もう少しフランクに交流し、協力しあえたら、と思うのですが」と苦言を呈されました。
果たして、日本が支援をした極東地域では物資の横流しが横行しました。極め付けは、91年末に日本の自民党からロシア最高会議宛にチャリティーオークション用に寄付された、100万ドル相当のテレビやビデオカメラなどの箱の中身はおがくずやレンガ、板切れにすり替わっていまい、オークションを主催したロシア福祉センターが売り上げ金額160万ルーブルを全て弁済する羽目になってしまいました。
援助など行うにあたっては、自分自身の思い込みで行わず、すでに現地で経験した人や団体からの情報をきちんと聞いた上で、あらかじめ対策を立ててから行うべきであると痛感いたしました。
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