第一部 ロシア零年
第四章 マフィアのために人道援助を - 一九九二年四月〜五月 -
(p.156−p.167)
超大国として君臨していた旧ソ連ですが、旧ソ連崩壊に伴う経済混乱で、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本など冷戦時代の敵国から大量の人道援助物資が送られることになりました。
一方、援助を受ける側にとっては「昨日までの敵」から「施し」を受ける自分と自分の祖国の没落が情けないと思うことをはじめ、超大国だった国民としてのプライドが傷つけられたと感じたり、またその援助物資がまともに手元に届かずに闇へと消えていくことでさらにプライドが傷つけられたようでした。
大規模援助を行った国の一つであるドイツは、ゴルバチョフからの呼びかけに応じ、ドイツ赤十字社をはじめ民間から約5億ドイツマルク(約405億円)の寄付と、ドイツ政府は6億マルク(約486億円)の援助物資を集め、ソ連へ寄付することになりました。
ソ連側との取り決めでは、物資はドイツ側で無償で用意する一方、輸送費はソ連持ちということになっていました。
しかしソ連側は輸送費がないと主張し、輸送費の捻出のために援助物資の一部を国営店舗で販売するので、その売り上げの一部を輸送費に、一部を最貧困層への現金寄付に充てたいと言い出してきました。また、首都における物不足は危険な政治的不安要因となるため援助をモスクワに集中してほしいと要望してきました。
それを承諾したドイツは、ソ連政府を信頼して輸送してもらうことにしましたが、物資は輸送中に大量に横流しされており、その犯人は官僚や警察であったという実態にドイツ側は愕然としました。
また、病院に薬や医療器具などの援助物資が届いた場合でも、医師や看護婦が箱ごとくすねて自由市場で売り払うということが頻発していました。
そして、これらの事実は、ソ連の警察ではなく、地域住民が直接ドイツ大使館へ訴えてきたことによって初めて発覚したのでした。
混乱期にあっては、外国からの援助物資の輸送に従事することは、大変重要な職で、運転免許の類や自動車が役に立つことが窺い知れました。
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