第一部 ロシア零年
第三章 マルクスの国の遺産相続 - 一九九一年十二月〜九二年二月 -
<III><みなしごの冬>のモスクワ
◆先に奪ったものが、遅れて来た者を裁く
(p.132−p.136)
モスクワ市オクチャーブリ地区に端を発した地上げスキャンダルはその後、各地で多発し、地域住民を巻き込んでいきました。
例として、モスクワのプロレタルスキー地区に在住するネリードワは、90年10月のある日に、同地区執行委員会に付属する住宅登録分配局に呼び出され、「あなたの住んでいる住宅は、移転計画に含まれている」と一方的に通告されました。
”どこかで誰かが計画を作り、官僚が命令したら、国民は黙って従わなければいけない”改革派のポポフが市長となった今は、もはやそういう時代ではないと考え、移転命令に従わない覚悟を決めたところ、91年夏になると住居は「ホレックス・ツェントル社」という全く知らない合弁企業の所有権になっており、留守中にドアや備品類が持ち出される、ガス水道が破壊される、脅迫を受けたり、裁判所から呼び出し命令が出されるなどありとあらゆる嫌がらせを受ける結果となりました。
私有化・民営化を表す「プリバチザーツィア」は当初、公平公正なルールで公共財産が分配されると思われましたが、実際は早い者勝ちで力づくで奪い取ることだったのです。
皆が皆、なにがしかのものを盗み、どこかの市場で高値で売りさばいて利ざやを稼いで生活するという有様で、そこでは誰も取り締まるものはいなかったのです。
一度秩序が崩れ、混乱した社会になると、先に富と権力を確立した者たちが、後から遅れて奪いにかかろうとする人たちを、力づくで何食わぬ顔で裁き、正当化するやり方を取るというやり方を取るという弱肉強食の時代が発生してしまい、この立ち退き騒動は氷山の一角にすぎません。
- 投稿タグ
- あらかじめ裏切られた革命, 内容紹介, 岩上安身, 旧ソ連, 書評