第一部 ロシア零年
第三章 マルクスの国の遺産相続 - 一九九一年十二月〜九二年二月 -
<II>なし崩しに売られる帝国
◆民営化という名の錬金術
(p.118−p.123)

オクチャーブリ地区の再開発では、モスクワ市執行委員会の「決定第138号」に基づいて決定されました。

「決定第138号」においては、「モスクワ市執行委員会」と、「オクチャーブリ地区ソビエト」の機能を制限する実験を行うと宣言したのち、

1、公共財産の所有と使用権は「オクチャーブリ地区ソビエト」に委嘱する。
(地区内の財産は地区のソビエトに所有権がある)
2、オクチャーブリ地区に、「公共財産管理局」創設を承認する。
3、「オクチャーブリ地区ソビエト」の管理に移った財産は、「公共財産管理局」へ権利の委譲を行うことが妥当と考える。

という構成でした。

平たくいうと、地区のソビエト(議会)に財産所有権は認めるので一切文句をいうな。そして、その財産は直ちに、ポポフ市長やザフラフスキー議長らの息のかかった私企業である「公共財産管理局」に全て渡せ。あとはうちらでやりたい放題やらせてもらう、というすごい内容です。

さらに恐ろしいことに、「公共財産管理局」の収益は、91年末時点で1億ルーブルと500万ドルに上ると予測されているにもかかわらず、本来財産権がある、地区のソビエトへは1ルーブルも入金されていなかったのです。

極め付けは外国資本との契約で、「99年租借権」が勝手に設定されていたことです。

このことに対して91年12月6日に民主派支持の新聞メディア「コムソモリスカヤ・プラウダ」がスキャンダルとしてほんの触りだけを取り上げたところ、連日住民から地区ソビエトへ問い合わせが殺到、ポポフ市長の退陣要求集会が開かれ、最終的にポポフ市長は辞意を表明することになりました。

しかし、この詐欺的とも言える土地取引の方法はソ連全土に広まりました。これは日本とも無関係ではなく、日本国固有の領土でありソ連(現ロシア)が不法占拠している色丹島の土地も上記のやり方で香港資本が買収しようと試みたため、慌てて日本政府が外交で阻止したという事例もありました。

国民共有の財産が知らぬ間に売却される恐ろしい事例が紹介されていました。財政が破綻するとこういう事態が発生する可能性があります。

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