第一部 ロシア零年
第二章 母なる、されど病める大地 - 一九九一年九月〜十一月 -
◆ソーセージを腐らせろ!
(p.78−p.88)

八月クーデターの前に、保守派対改革派の政治ゲームが発生し、誰がどのタイミングで共産党を離党して民主派を名乗ったかという競争でありました。
そして、八月クーデターが発生して失敗したが、この時にクーデターに賛成した人、クーデターに対して明確に反対を表明しなかった人たちに対して「アカ狩り」が発生して罰せられ始めていました。
逆にいうと、決定的な局面で勝ち馬に乗っておけば、いままでの遅れを取り戻せることができる場合がある、ということですが、これは実力のある人だけが使える手法で、一般人の場合は事前に準備しておく必要がありました。

さて、ソ連末期には物不足に直面していましたが、原因の一つは物資の生産や輸送に偏りがあったことでした。

例としてモスクワ郊外にあった食肉加工コンビナートでは、原料の肉はカザフスタンから供給がたまに滞ることがあってもソーセージやハムが1日あたり210トンが生産されていましたが、モスクワ市内・オレホボリソワ地区の店には潤沢にある一方、レニングラード地区の店にはまったく届かないなど出荷先に著しい偏りがありました。

この理由は、ある地区から選出された代議員の評判を落とすために意図的に物不足を作り、その議員が解決できない状態に陥らせる権力闘争の目的でした。

さらに、計画生産しても、輸送トラックの手配がつかなかったり、製品に必要な防腐剤を意図的に製造過程で抜いたりして店頭に到着した時には腐ってしまって売り物にならなくなるということが相次いで発生していました。こういうことが起きても、工場幹部は売り上げを官僚と一緒に着服しているため告発することができません。

結局、ポポフ市長も経済や物流の実態を握っている官僚たちに立ち向かうことができず、そのまま取り込まれてしまう形となってしまったようです。

たとえこういう汚職官僚を一朝一夕に無くすべく粛清しようとしても、粛清した時には非人道的な全体主義国家が出来上がる上、さらに汚職が酷くなるという結末になってしまいます。汚職はロシアの母なる大地に深く根ざした風土病であるものの、大地から切り離されれば人は生きていけないという言葉が非常に重たい内容でした。