第1章 ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
§5 アメリカと「ドイツ帝国」の衝突
今後20年に衝突の危機
(p.62-63)

 ー この文脈において、ドイツ・アメリカ関係にどんな将来があり得るでしょうか? 

 もしあなたが、現在支配的なイデオロギー、つまり「ル・モンド」紙の、フランソワ・オランドのイデオロギー、それはまた素朴なアンチ帝国主義者たちのイデオロギーでもあるのだが、そんなイデオロギーで魔法にかけられた世界に生きているならば、アメリカとヨーロッパ ー日本は今もアメリカの保護下にあるとしてー を連結する西側ブロックがロシアを抑えなくてはいけないし、抑えることができると考えるだろう。よき戦略的合意と強固な協力関係という仮説に立てば、西洋はロシア経済を打ち負かすことができるだろう。そうかもしれない…。もっとも、中国、インド、ブラジルも存在していて世界は広大ではあるからとして…。
 しかし、価値と呼ばれるものが現実的であれ神話的であれ、価値の問題を脇に置いて、もっぱら力関係の現実に注目する戦略的現実主義の世界に身を移せば、今日、二つの大きな先進的産業世界の存在を確認することになる。すなわち、一方にアメリカ、他方に新たな「ドイツ帝国」である。ロシアは第二次的な問題でしかない。
 したがってこれからの20年間は、東西の紛争とは全く異なるものに直面しなければならないのだ。ドイツシステムの擡頭は、アメリカとドイツとの間に紛争が起こることを示唆している。これは力と支配の関係に基づく内在的なロジックである。私の考えでは、未来に平和的な協調関係を想像するのは非現実的だ。
 この段階で、しかしながら我々は改めて価値の概念を再導入することができる。ただしそれは次のことを協調するためだ。
 ある意味で現実主義的な人類学者の観点から見て。あるいは数世紀に及ぶ長い期間に注目する歴史家の観点から見て、アメリカとドイツは同じ諸価値を共有していない。大不況の経済的ストレスに直面した時、リベラルな民主主義の国であるアメリカはルーズベルトを登場させた。ところが権威主義的で不平等な文化の国であるドイツはヒトラーを生み出したのだ。

 EUは様々な国が集まった集合体であるという生易しいものではなく、ドイツに支配されており、そして「ドイツ帝国」の規模は、もはやアメリカとほぼ対等のレベルに達していることを数回にわけてご紹介してきました。トッド氏は改めて、もはやアメリカのコントロールが効かなくなった「ドイツ帝国」こそアメリカにとって最大の脅威となることを指摘しているのです。

 引用最後の部分ですが、アメリカの家族型は絶対核家族である一方、ドイツの家族型は直系家族であり、両国はそれぞれの家族型を元にした社会を形成しています。フランクリン・ルーズベルト大統領はニューディール政策を行うことで貧困層の救済を図り、保護貿易体制から自由貿易体制へと改めるなど自由を重視しましたが、黒人および戦時中の日系人に対する差別があったことから平等に関しては無頓着な社会でした。
 一方、ドイツのヒトラーはプロパガンダ映像写真で象徴されるように、カメラアングルは常に下から見上げるように撮影させることで自身が内外に最高の権威であることを示し、著書「わが闘争」では、アーリア人たるドイツ民族は他民族よりも優れている一方、民族に序列を設けユダヤ人を最下層に置くなど差別政策も推進していたことが知られています。
 その対決のされ方は「自由vs序列」になるものと思いますが、詳細は次回以降にご紹介いたします。

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