第1章 ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
§5 アメリカと「ドイツ帝国」の衝突
ドイツ専用のデモクラシー
(p.66-67)
もし現在のヨーロッパを描かなければならないとすれば、もし経済地図を政治的な面でコメントしなければならないとすれば、私は言うだろう。ヨーロッパ、あるいはドイツ帝国が「支配者たちのデモクラシー」の一般的な形を取り始めていて、その中心には支配者たち専用のドイツ・デモクラシーがあり、そのまわりに、多かれ少なかれ支配されていて、その投票行動には何の重要性もないような、諸国民のヒエラルキーが形成されている。
このモデルを採用すると、フランスで大統領を選んでも何も起こらないのがなぜなのかよりよくわかる。つまり、フランスの大統領にはもはや権限がないのだ。特に通貨システムに関して。
かくして我々の前に現れてきているのは、報道、意見、その他の自由が完璧に尊重されていて、そういう点ではなんら問題がないのだが、基本的に言えることとして、システムの安定性が支配者グループの内部での下意識的連帯に基づいているようなデモクラシーなのである。このところ輪郭を現してきたヨーロッパ像においては、ドイツ人たちを人種差別時代のアメリカにおける白人たちのように見ることができる。
今日、政治的不平等はアメリカシステムの中でよりも、ドイツシステムの中での方が明らかに大きい。ギリシャ人やその他の国民は、ドイツ連邦議会の選挙では投票できない。一方、アメリカの黒人やラテン系市民は、大統領選挙および連邦議会選挙で投票できる。ヨーロッパ議会は見せかけだ。アメリカ連邦議会はそんなことはない。
EUには「欧州議会」が存在します。議席は全体で751あり、加盟国の人口に応じて議席が割り当てられております。ドイツは最大の91議席、フランスは74議席、イギリスとイタリアは73議席、ギリシャは21議席などとなっております。
欧州議会では予算や立法などについて決議を行ってはおりますが、2015年6月から7月にかけて発生したギリシャ債務問題や8月以降に深刻化したシリア難民のEU諸国への流入問題では、ほとんどがドイツの意向で決定しているのが実情です。
EU各国には自由や民主主義は存在していますが、それはドイツに対して影響力を及ぼすことができない形となっており、ドイツ中心のヒエラルキーに基づく「支配者たちのデモクラシー」が存在する、というトッド氏の指摘は、なるほどと思わざるを得ませんでした。