第1章 ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
§3 ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
「併合途上」ーウクライナ
(p.50-51)
ウクライナは私は「併合途上」とみなした。ウクライナは当面、お誂え向きのヨーロッパ統合優先主義的な併合とは見えない。むしろ国家的にも産業的にも崩壊しているゾーンの併合だ。その崩壊は、今後さらにEUとの自由貿易協定によって加速するだろう。とはいえ、非常にコストが安い労働人口の併合でもある。
ところで、新しいドイツシステムは基本的に労働人口の吸収によって成り立つ。最初の段階で使われたのは、ポーランド、チェコ、ハンガリー等の労働人口だった。ドイツはコストの安い彼らの労働を用いて自らの産業システムを再編した。
4500万人の住民を有するウクライナの労働人口は、ソ連時代からの遺産でもある教育水準の高さと相まって、ドイツにとって例外的な獲得物となるだろう。これはとりもなおさず、今後非常に長きにわたってドイツが支配的地位を保つという可能性、そして特に、支配下の帝国を伴うことによっていますぐにもアメリカを上回る実質的な経済大国になるという可能性に他ならない。哀れなブレジンスキー! 彼の見込みは外れる。
ウクライナは、住民投票によりクリミア半島がロシアへ編入されたり、東部で親ロシア派と戦闘が散発的に繰り広げられる事態に突入していますが、元はと言えばウクライナの財政がロシアやEU諸国による融資返済の問題を抱えており、ギリシャ同様破綻寸前の国でした。
しかしながら、ウクライナの東部は旧ソ連時代から中核となる主力兵器工場が存在しておりますので、工業力自体は決して低いというわけではありません。さらに、教育水準も高かったことから現在はともかく、中・長期的にみるとトッド氏の見立て通りドイツは廉価で有力な工業地帯を抑えることができたのではないかと考えます。
トッド氏は「哀れなブレジンスキー」と言っておりますが、最近のシリア難民が大量にEU諸国へやってきた契機の写真はアメリカによるプロパガンダだったという説であったり(
ドイツとEUを動かした”あの写真”にヤラセ疑惑が急浮上! 難民受け入れ「大混乱」の現場から:現代ビジネス)、フォルクスワーゲン社のディーゼル車不正検査問題でドイツ経済が大きなダメージを受けはじめているなど(アングル:VW問題、ドイツ経済にギリシャ危機以上の打撃:ロイター)、ここへきてドイツを中心としたEUの国力を大幅にそぎ落としにかかる作戦に出たように思え、私としてはトッド氏とは異なりブレジンスキーは侮ってはいけないと考えます。