第1章 ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
§2 ウクライナ問題の原因はロシアではなくドイツ
東欧支配で衰退したソ連、復活したドイツ
(p.38-41)

-では、次の一連のグラフを分析してください。いずれもアメリカとドイツ中心となったヨーロッパを比較していますね。
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 これらの図表が示しているもの、それはヨーロッパの産業上の潜在的優位性である。なるほどドイツ中心のヨーロッパは非同質的で、脆弱性を内包しており、潜在的に不安定だ。しかしながら、住民の序列化メカニズムが現在進行中で、それが整合的で、かつ時に効率的支配構造を固定化し始めている。

 最近のドイツのパワーは、かつて共産主義だった国々の住民を資本主義の中の労働力とすることによって形成された。これはおそらくドイツ人自身も十分に自覚していないことで、その点に、もしかすると彼らの真のもろさがあるのかもしれない。

 つまり、ドイツ経済のダイナミズムは単にドイツのものではないということだ。ライン川の向こうの我らが隣人たちの成功は、部分的に、かつての共産圏諸国が大変教育熱心だったという事実に由来している。共産圏諸国が崩壊後に残したのは、時代遅れになった産業システムだけではなく、教育レベルの高い住民たちでもあったのだ。

 戦前のヨーロッパにおけるポーランドの教育状況と、それよりはるかに良好な今日のそれを比べると、ポーランドが現在の経済的好調さの一部を共産主義に負っていること、さらにはおそらく、皮肉極まりないことにロシアに負っていることを認めざるを得まい。我々は将来、ドイツ的管理がポーランドをどのような状態にするかをみる機会があるだろう。

 いずれにせよ、ドイツはロシアに取って代わって東ヨーロッパを支配する国となったのであり、そのことから力を得ることに成功した。ロシアはかつて、人民民主主義諸国を支配することによって却って弱体化したのであった。軍事的コストを経済的利益によって埋め合わせることができなかったからだ。アメリカのおかげで、ドイツにとって、軍事的支配のコストはゼロに近い。

 私たちが普段、主要諸国の比較資料を目にする時は各国ごとの個別で記載されているため、数値の比較は、日本とドイツ単体とで行いがちです。しかし、トッド氏の本著では「ドイツ帝国」-ドイツ領域下にある周辺諸国を合算したものでの統計資料となっています。そこでは、人口、合計GDP、産業付加価値のいずれもがアメリカとほぼ互角のレベルにあるという現実を一般人にわかりやすい形で紹介しており、私もこの事実を目の当たりにして大きな衝撃を受けました。

ポーランドが第二次大戦前から戦後のソ連共産圏下、そして現在までに至る教育状況については残念ながら調査仕切れませんでしたが、旧ソ連における識字率は、20世紀初頭では28.5%からロシア革命後の1926年は56.6%、1939年は87.4%、第二次世界大戦後の1959年は98.5%と大幅に向上していたことから、旧共産圏においては初等教育に関して相当力を入れていたであろうと推測されます。(参考:ソ連言語政策史再考)そして、その初等教育がきちんと行き届いた良質の労働力をドイツはそっくりそのまま手に入れ、自国の産業構造に組み込み支配を強めようとしているのです。

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