第1章 ドイツがヨーロッパ大陸を牛耳る
§2 ウクライナ問題の原因はロシアではなくドイツ
ドイツ外交は不安定ー歴史の教訓
(p.32-p.33)

 ドイツは現下の国際的危機において複合的でアンビヴァレントだが、それでも推進力となる役割を演じている。しばしばドイツというネイションは平和的にみえる。が、それでいて、ドイツにコントロールされているヨーロッパは攻撃的に見える。あるいはその逆もある。ドイツには今や二つの顔があるわけだ。ヨーロッパがドイツであると同時に、ドイツがヨーロッパなのだ。

 従ってドイツは幾つかの声で自己を主張・表現することができる。ドイツの外政を歴史的に特徴付ける精神的不安定と、ロシアとの関係における精神分析的な意味での二極性を知るものにとってはこれはかなり心配なことだ。

 目下私は容赦のない語り方をしていると自覚しているけれども、今、ヨーロッパはロシアとの戦争の瀬戸際にいるのであって、われわれはもはや礼儀正しく穏やかでいるだけの時間に恵まれていない。言語と文化とアイデンティティにおいてロシア系である人々がウクライナ東部で攻撃されており、その攻撃はEUの是認と支持と、そしてすでにおそらく武器でもって実行されている。

 ロシアは自国が事実上ドイツとの戦争状態にあることを知っていると思う。その点についてのあの国の沈黙は、フランスやアメリカの場合と違って現実を直視することの拒否ではない。むしろ良き外交というものだ。彼らには時間が必要なのだ。彼らの自己コントロール、プーチンや外相のラヴロフならプロフェッショナリズムというだろうか。あれは賞賛に価する。 

 最近のドイツは、中近東の大規模難民受け入れに際してはドイツは寛大な条件を出して受け入れる平和的な面がある一方、ギリシャの債務減免交渉に際してはあくまでも強硬に緊縮財政を主張するなど、攻撃的な面も見られており、ドイツが二つの顔を持つというトッド氏の指摘は正しく思えます。

 また、トッド氏は西欧諸国のマスメディア、マスコミ関係者とは異なり、現在のロシアおよびロシアの外交姿勢に対して高い評価を与えているのは見逃せません。これについては第二章で詳細に記されています。

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