第5章 オランドよ、さらば! -銀行に支配されるフランス国家
政府債務は民間金融機関の発明
(p130-132)

 そしてカユザック事件(オランド政権で予算担当相を務めていたカユザックがスイスの秘密口座を利用して納税逃れをしたとの疑惑で辞任した事件)が起こった。当初私は、あの事件をイデオロギーに関する教訓としておあつらえ向きだと思った。なにしろ。緊縮財政の保証人が腐敗した人間だとわかったのだからね。歴史の狡知というやつが働いて、システムを丸裸にした!
 考えてみれば、ヨーロッパにはカユザックの同類が何人もいて、彼らは皆、銀行システムとの間に怪しげなつながりを持っている。イタリア人、マリオ・モンティは人徳の人としてわれわれに売り込まれたが、たとえばゴールドマン・サックスとつながっていた。カユザックは全体から離れて腐敗した一個の原子ではなく、システムの中の一部品だったのだ。

 ―そのシステムはどんな性質のものと考えているのですか?
 カユザック事件で政府債務とは何であるのかが明らかになった。政府の貸し付けは、カール・マルクスが見抜いたとおり、富裕層の持つ金の安全化だ。政府債務は民間金融機関の発明なのだ。
 緊縮、すなわち「政府債務を立て直す」というやつは、国家を私的利益に奉仕する立場に拘束し、いつの日か不可避的にやらなければならない唯一のことをできないようにすることだ。やらなければならないこととは、借金のデフォルトさ。市針を拒否することだよ。
 私はここで、支配的イデオロギーと真っ向から対立する立場にいる。ユーロという金銭が宗教となり、神となっているこの時代に「考えられないこと」の中にいる。
 しかしだね、成長した経済の停滞は、社会構造の上層部に不要な金銭が蓄積されていることによるのだよ。
 市場を再活性化し、デモクラシーを再建するには、メーターをゼロに戻す必要があるんだ。これはもちろん、必要な部分についての話だ。全面的に、というわけではない。私は革命には賛成しない。
 カユザックのようなやつがとっ捕まるのは、だから悪くない。コマを先へと進ませてくれる。

 フランスにおいて、経済や金融関連を司る省庁は、経済・財務省にあたります。ただし、フランスの場合は日本とは異なり、管轄する内容が内閣組閣ごとにコロコロ変わるという特徴があります。カユザック氏は、第二次エロー内閣において経済・財務大臣付予算担当大臣(予算担当相)として就任いたしましたが、予算作成に関与する人が脱税を働くというのは日本で例えると財務大臣や、財務省事務次官が脱税をしたという感じの衝撃的なスキャンダルで、今回初めて知った次第です。しかも、オランド政権は緊縮財政を売りにしていただけに、トッド氏をはじめとしたフランス人がどれほど怒り呆れたことか想像に難くありません。まるで民主党政権下の日本のような感じがします。

 また、緊縮財政派という点において、本文に取り上げられているイタリアのマリオ・モンティ元首相は本2015年に日本の旭日大綬章を受章された人物で、イタリアで緊縮財政政策を行って成果をあげ「スーパーマリオ」という愛称が付けられたそうです。しかしトッド氏によるとマリオも国際金融機関の下っ端であるということのようです。

 財政再建問題に関するトッド氏の考え方は、政府債務を立て直すということよりも、失敗したら一度リセットしてやり直すべきだという考えであることが伺えました。
 
 

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