第4章 ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス
ユーロは機能していない
(p.124-126)

 -1995年に「新ヨーロッパ大全」が再販された折、あなたはこういっていましたね。「この本は20年後に、集団意識が存在しない中で強引に進められた国家的統一が、何ゆえに社会ならぬジャングルを生み出したのかを理解させるだろう」と。今日、将来をどのように予想しますか?

 たしかに過去に私は幾度か、予言的な「スクープ」に成功しました。ソ連の転落、アメリカの衰退、「アラブの春」、生まれてきたときから死んでいたユーロの失敗などがそれです。
 しかし、その私も、現況が呈しているまったく新しい様相には面食らっていることを認めざるを得ません。もちろん探求をやめはしませんが、前例のないファクターがたくさん出てきているため、予言的なことを言うのがほとんど不可能になっていることを認めざるを得ないのです。
 ヨーロッパは今日裕福で、高齢で、とても文明化されており、さまざまなネイションの再生という異論の余地のないダイナミズムの存在にもかかわらず、平和でもあります。ヨーロッパでレイシズムが進んでいるなどと断定するのは、歴史を知らぬ誤謬です。
 現代を1970年代に比べるとき、人々がさまざまな(身体的な、性的な…)差異に対してどれほど寛容になったかを私は確認し、感嘆します。われわれは、大規模な暴力、すなわち戦争が容易には考えられない世界に生きているのです。したがって私は、旧大陸の只中に位置づけられる終末論的なシナリオに対しては、依然懐疑的です。
 ユーロに関して今日明らかなことは、言語、構造、メンタリティの面で共通点が結局ほんのわずかしかない多様な社会が積み重なっている中では、この通貨は決して機能しないということです。
 他方で私の目に明らかなのは、ユーロ圏とその破壊的ロジックを打ち砕くことができそうな唯一の国はフランスだということです。
 が、私は断念しました。自らの失敗の現実を直視し、別の考え方を採用する能力のある政治的エリートは、今日のフランスにはいません。
 とはいえ、私はなによりもまず歴史家です。歴史は継続していくものです。たとえ愚か者たちに担われている歴史であっても、とにかく続いていくのです。そしてその歴史がちょうど加速しようとしている今、歴史を観察することができるという可能性が、私の市民としての悲しみを緩和してくれます。

 これで第四章のご紹介は終了です。ユーロ圏とその破壊的なロジック、そしてそれが打ち砕ける可能性がなくなったという点については、第五章オランドよ、さらば!にて詳細が語られています。いずれにしても複数の国をまたいだ欧州共通通貨「ユーロ」が、その特性ゆえにギリシャ問題をめぐる対応で解決策にこじれる原因となったことは記憶に新しいです。
 トッド氏は欧州は1970年代と比較して様々な差別問題がなくなってことを誇りに思っていますが、シリア問題で本当にレイシズム、とりわけドイツでそれががなくなったといえるのか、その点は注視しなければいけないと感じています。少なくともドイツに関しては「ドイツは非合理的な行動をして暴走する」点は、VW問題への対応を鑑みても、予言的なスクープともいえるからです。

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