第4章 ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス
ロシアが好戦的になることはありえない
(p.119-121)

 ーウクライナにおける西洋陣営のこの十字軍はいったい何を意味しているのでしょうか。この十字軍に、西洋で日増しに大きくなってきているひとつの困難、自らを定義し、自らを取り巻くものを定義することの困難の兆候のようなものが見えるといっていいでしょうか?

 実際、今日西洋人は自分たちが何者であるかがわからなくで四苦八苦しています。
 ドイツ人たちは平和主義と経済的膨張主義の間で迷っている。
 アメリカ人たちは帝国路線とネイション路線との間で揺れている。
 そしてフランス人たちは、この混迷の中でどこに身を置けば良いか本当にわからなくなってしまっている。
 こうした事情の結果、次々に起こってくる事件を読み取る西洋のエリートたちの読みが、かなり貧しく、薄っぺらなものになっています。だからこそ数多くのジャーナリストたちがこのところ「プーチンの狙いはなんなのか」としきりに議論するのです。ところが真実はというと、それと正反対のことが起こっているのです。ロシア人たちは明確に定義された、かなりおおきいけれども限定されたパワーへの意志を示しているのに、西洋はこの問題において明確で分かりやすいどんな目標も最終的に持っていないのです。
 さらに、「ヨーロッパ人」と称せられるわれわれにとっては、もしかしたらロシア嫌いの感情だけが、今やたいしたものを意味しなくなってしまった政治的・通貨的空間を一つにまとめておくための鎖なのかもしれないとさえ言えます。
 ネイションと歴史の再浮上の文脈において、そしてユーロ圏の衰退を背景として、西洋人たちのこの分別のなさは、単に滑稽であると同時に残念なものであるだけではなく、危険なものともなります。
 しかしながら相対化すべきでしょう。われわれが抱えている問題には、逆説的なことに、ヨーロッパ大陸の安定に寄与する利点も含まれています。西ヨーロッパの人口は高齢で、今なお非常に富裕で、失うものをたくさん持っています。それに対してロシア人たちは、多くの被害をもたらした経済的衰退の年月の後、やっと「一息つく」ことができ始めたばかりです。死亡率の傾向が逆転し、経済が安定し、農業が再び伸び始めてきた。
 ですから、かけてもいいですよ。ロシア人たちはネイションへの帰属に正真正銘の誇りを持っているとはいえ、今日、コントロールの効かない好戦的妄想に突然陥るような状態にありません。

 トッド氏はロシアは好戦的ではないことを度重ねて主張していますが、西欧マスコミによる一般的な「ロシア嫌い」というバイアスのかかっている報道の背景については、私にはドイツ、アメリカ、フランスのヨーロッパ諸国で自分たちの国の立ち位置をめぐってどうあるべきか、どのような立ち位置にあるべきかが迷っているためにプーチン政権下のロシアに対しての現状分析が甘くなり、結果として「確固たるデータに基づかない、雰囲気によるロシア嫌い」が醸成されているように読み取れました。

 「日本においても自分の立ち位置と状況について、果たして何者なのかわかっているのか。そして、私自身も含めてどうしなければいけないのか?」私は上記文章を読んで、このことを思わざるを得ませんでした。

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