第4章 ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス
ロシアの合理的な外交
(p.114-115)

 ウクライナ危機におけるロシアの外交的観点は文化主義的ではなく、非常にシンプルです。つまり、ロシアの指導層はウクライナにNATOの基地を望まない。そんなところに基地を作られたのでは、バルト三国とポーランドから成る包囲網が一層強化されてしまうというわけです。
 それだけのことです。
 ロシアが望んでいるのは平和と安全です。自国の復興を完遂するためにロシアは平和と安全を必要としていて、クリミア半島で見られたとおり、今ではそれを獲得する手段を持っているのです。
 最後に人類学者からの助言を一つ付け加えます。自分たちの道徳観を地球全体に押し付けようとするアグレッシブな西洋人は、自分たちの方がどうしようもなく少数派であり、量的に見れば父系制文化の方が支配的だということを知った方がよろしい。
 私は個人的には、われわれの生活様式が気に入っているし、フランスで同性婚が認められたことをとても喜ばしいと思っています。しかしそうしたことを文明と外交の領域で主要なリファレンスにするのは、千年戦争をおっぱじめることであり、その戦争はわれわれにとって勝ち目のない戦争なのです。

 ロシア外交については、難民問題が続いているシリア問題に関する軍事関与の仕方(最初にイスラエル国境付近をイランと共同で封鎖、諜報員を派遣し反政府勢力の情報を入手したのち、先にISISではない反政府勢力から集中爆撃をしてISIS側の逃げ場をなくしてから、ISIS側に対して総力を挙げて集中爆撃をかけ、カスピ海からの巡航ミサイルも投入、命中させ大戦果を挙げている)は、ISISを本気で壊滅させるための合理的な手法とあると感じています。
 そして、ロシアは「ISISを壊滅させシリア難民問題を解決させる」という名目で実施しているため欧州諸国は一切ロシアに反論できない状況になっており、このことからも、トッド氏の指摘とおりロシアは大変合理的に外交を行っていると言わざるを得ません。
 
 父系性社会は、ロシアや中国をはじめ、旧共産圏諸国の家族様式である外婚性共同体家族、イスラム諸国にみられる内婚性共同体家族、ドイツや日本などでみられる直系家族が含まれており、ユーラシア大陸の広大な領域を占める勢力です。さらに付け加えるとこれら父系性社会は、大規模気候変動に伴い、人々が生き残るために他地域への軍事侵略を行いやすくするために編み出されたものといわれており、母系性社会(絶対核家族/平等主義的核家族社会)よりも歴史が浅いようです。
 こういう事情から、トッド氏は同性婚を認めないロシアやイスラム地域と戦う羽目になったら欧州諸国には勝ち目がないと言っているわけです。(現にシリア難民問題でさえ欧州諸国は大苦戦しています。)

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