第4章 ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス
ウクライナ問題をめぐるドイツの強硬姿勢
(p.110)

 いつの日か、歴史家たちがシュレーダーからメルケルへの第k転換に言及することになるでしょうか。
 西側で主要なアクターであるのは、今や間違いなくドイツです。しかしドイツの行動には揺れがあり、攻撃的な時期があると思えば、妥協的な姿勢をとる退却の時期もあります。後者はたしかにだんだん短くなってきていますけれども。
 現在の局面は、ドイツ外相シュタインマイアーのウクライナ訪問から始まりました。ウクライナの首都キエフにポーランド外相シコルスキーも姿を見せたということが、シュタインマイアーの任務がアグレッシブなものであったことの証です。
 ポーランドがロシアに対して二極的であるというようなことは到底考えられません。ロシアに対するポーランドの敵意は恒常的で時代を超え、決して鬱に転じることがない躁状態のようなものです。
 フランス外相のローラン・ファビウスはといえば、あそこでも例によって自分が何をしているのかわかっていませんでしたね。彼の失態リストにまた一つ、レインボー・ウォーリア号事件(R・ファビウス首相在任中の1985年、フランスの諜報機関DGSEにより、オークランドでグリーンピースの活動船が爆破された事件)が加わったようなものです。
 リベラルで民主主義的な諸価値に関する駄弁は、ウクライナの極右とヨーロッパが手を結んだことによって嗤うべきものとなりましたが、ああした駄弁を超えて、あのキエフ訪問が我々の目に明らかにしたのは、ドイツの新たなパワー外交であり、その中期的目標は多分、ウクライナ(統一しているか、分裂しているかは二義的問題です)を安い労働力市場として、自らの経済的影響ゾーンに併合することです。2003年のシュレーダーならば、絶対にやらなかったであろうオペレーションです。

 「現在の局面は、ドイツ外相シュタインマイアーのウクライナ訪問から始まりました」という点について補足します。
 ドイツ外相シュタインマイアーのウクライナ訪問は、2014年3月中旬から下旬にかけて行われました。当時はロシアがクリミアを住民投票結果に基づき、併合を進めていた時期で、訪問後の3月23日にドイツ外相シュタインマイアーは、EUはロシアに対してより厳しい経済制裁を科すことを主張し、ロシアに対して強硬な態度を取り始めたのでした。
(参考:ドイツのトップニュース(個人ブログ))

 この強硬主張により、ドイツはウクライナを安い労働力市場として併合開始する、というトッド氏の読みは、ウクライナが若年の高等教育を受けた労働者が国外へ流出している現状を踏まえると納得できます。

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