第4章 ユーロを打ち砕くことができる唯一の国、フランス
オバマ大統領による路線転換
(p.108-109)

 バラク・オバマのホワイトハウス入りと時を同じくして、アメリカの姿勢が一変しました。オバマの路線は、当時私が察知した通り、アメリカのパワーにとっての長期的脅威が存在するアジアに「外交基軸」をよりしっかりと据えるべく、イランおよびロシアとの緊張関係は緩和するというものだった。
 ワシントンのこの撤退は、プーチンに接近して商業・エネルギー・産業における大々的なパートナーシップを完成させるというヨーロッパ諸国の意思、特にドイツの意思を強化する要因だったはずです。そうして、フランス+ドイツ+ロシアというエンジンに基づくバランスのとれたヨーロッパが姿を現す可能性がありました。
 ところが、歴史はそれとは全く異なる方向へ向かいました。これは否定しがたい事実です。われわれはロシアとEUとの間の対決の只中におり、今やEUの経済的・外交的リーダーシップをとっているのはドイツです。

米国債発行残高

米国債発行残高とGDP推移(データは米国財務省の報告書に基づく)
(グラフ出典:金貸しは、国家を相手に金を貸す(個人ブログ)

 オバマ大統領が外交転換した理由の一つは、上述のグラフのように泥沼化したイラク戦争と2008年に発生したリーマンショックにより巨大財政危機が発生したため、従来であれば二正面からの脅威に対し、財政的に十分に対応できる余力がなくなってしまったことが挙げられます。
 そうなるとアジアを取るか、ヨーロッパを取るか、中東を取るかの3択となってしまいます。トッド氏の予想通り、オバマはアジアを重視しました(だからこそウクライナや中東から手を引いた一方で、2015年10月に中国が造成した南シナ海の「人工島」に対して艦艇を派遣したのです)。

 現在(2015年10月)ではシリア難民問題やロシアのシリア軍事介入が発生したため、和解の動きもみられますが、著書発行時(2015年5月)ではドイツとロシアはかなり対立していたのは事実です。

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