第3章 ウクライナと戦争の誘惑
「テロリストvsファシスト」の戦争に対して冷静なプーチン
(p.100-101)

 ーあなたはナチズムを引き合いに出すが、それはいくら何でも大げさすぎるでしょう!

 この手がかりを私に与えてくれたのは、キエフの軍事クーデター加担者と、彼らの敵であるロシア語話者たちです。
 前者は後者のことを「テロリスト」と呼んでいました。重い意味を持った言葉です。過去には占領者であったドイツの軍人が抵抗運動者(レジスタン)たちをそう呼んでいたのですから。
 対抗する陣営はといえば、彼らのことを「ファシスト」と呼んでいました。したがって、あなたに隠すつもりはありません、私はわれわれが市民戦争のロジックに、あるいは純然たる戦争のロジックに入ってしまうことを恐れているのです。

 ー戦争ですって? ずいぶん思い切ったことを言いますね。

 今こうして話しているこの瞬間、明らかにウラジーミル・プーチンは事態の沈静化を模索していますよ。それが彼の利益なのです。なにしろ、ロシアの復興はまだもろく、不確実でさえあるので、ロシアをまたも暴力と経済的、文化的停滞へと追いやることになる戦争は、あの国にどんな利益ももたらさないのですから。
  

 去る2015年10月2日にパリにて、ウクライナ危機をめぐり、ドイツ、フランス、ウクライナ、ロシアの4カ国首脳会議が開かれました。その結果をうけ、ウクライナからの分離独立を掲げる親ロシア派の武装勢力が、ウクライナ東部の緩衝地帯からの戦車の撤収を開始しました(ウクライナの親露派、戦車撤収と発表 かつてない和平の兆し 出典:AFPbb)。したがって、プーチンはウクライナ危機に関して事態を沈静化したがっているというトッド氏の予測は的中しました。

 また、「テロリストvsファシスト」というトッド氏の文言は過激かもしれませんが、大げさでも何でもなく事実でした。ウクライナのキエフで14年2月に軍事クーデターを起こした勢力は、親露派のことをテロリスト呼ばわりしている(出典:ウクライナ「対テロ作戦」表明、親露派排除で銃撃戦、死傷者も 露側工作員拘束 産経ニュース)一方、親露派は、軍事クーデター勢力のことをファシスト扱いしています。(出典:ロシア、ウクライナ、クリミア:非対称戦争 JBPress)
 

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