第3章 ウクライナと戦争の誘惑
ウクライナの暴走とヨーロッパの破産を止められるのは誰か?
(p.102-103)

 私が心配しているのは、ウクライナのペトロ・ポロチェンコ大統領と新しい指導者たちが、ウクライナ社会がバラバラになっていくことに途方にくれるあまり、むやみに先を急ぐというやり方で事態の打開を図りたくなることではないかということです。いったい誰なら、彼らを止めることができるでしょうか。
 このウクライナ危機に乗じて、アメリカはNATOと、あの国がヨーロッパに持っているネットワークを再起動しました。しかし私には、アメリカは今では事の展開についていけず、ネイションの再来に当惑しているように見えます。
 オバマ大統領は、ロシアと自国の間の揉め事に決着をつけるべく彼を利用しようとするドイツの指導者たちによって、煙に巻かれてしまいました。
 かくいう私は親米左翼です!
 また、スウェーデンがロシアに対して、ポーランドと共同戦線を張ろうとしていることも観察できます。スウェーデンはあたかも大北方戦争(1700-1721年)、彼らの王であったカール12世がウクライナのただ中、ポルタヴァの戦いで、ロシア軍を主力とする北方同盟陣営の軍に敗れて終わったあの戦争を再開しようとしているかのようです。
 フランス人といえば、いうまでもなく蚊帳の外です。
 5月22日-25日のヨーロッパ議会選挙でユーロを嫌う諸政党が擡頭したこと以上に、ウクライナにおける駆け引きとせめぎあいこそが多分、新式ヨーロッパ、リスボン協定で生まれたヨーロッパの破産を明らかに確認させてくれる事態です。

 ーいやはや、心配と不安が絶えませんね。
 そうはいっても、歴史とウクライナ社会の統計学的観察から引き出した仮説に過ぎません。まだ何も決定されたわけではないし、私は理性と妥協が最終的に勝利することを願っています。
  

 これにて第3章 ウクライナと戦争の誘惑 が終了です。原発事故を起こしたチェルノブイリがあるウクライナは近年、セヴァストポリは住民投票でロシアへと併合され、東部親露派との戦いで大苦戦を強いられた上、財政危機にて絶望した若年の高等教育を受けた層が国外へ流出しており、かなりガタガタになっております。先日の4カ国会議で停戦合意が成立し、東部親露派勢力の重火器撤去が始まったとはいえ、世界情勢が急変すれば、一発逆転を図るために暴走する可能性は十分ありうると考えられます。このウクライナの情勢は原発事故を起こした日本にとっても他人事ではないと考えます。

 トッド氏はアメリカはことの展開についていけず、ドイツに煙に巻かれて当惑しているという読みですが、私としてはアメリカのオバマ大統領は現在、ウクライナ、中東、アジア太平洋方面でそれぞれ難題を抱えており、これから経済成長が望めるアジア太平洋方面を最優先させるために、ウクライナ問題や中東問題はロシアにある程度任せ、アメリカの関与の度合いを低めたのではないかと推測しています。

 ただ、スウェーデンがウクライナ問題に介入してくるという、トッド氏の読みは私には大変意外に感じましたが、ヨーロッパの歴史を肌身で知る人ならではの見解と感じました。

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