第3章 ウクライナと戦争の誘惑
人口学で確認できるウクライナの解体
(p.97-98)

ーそれはなんとも不思議で面白い。ウクライナはロシアよりも近代的でないとおっしゃりたいのかな?

 まあ、それに近いことが言いたいわけです。ソ連の崩壊後、あの二つの国がどれほど異なる様相を呈するに至ったかに注目していただきたい。
 ロシアは騒動を起こさずに自らの古い帝国に別れを告げ、再び地に足をつけることができた。なぜなら強い国家的伝統を有していたからです。
 今日、ロシアは言葉の本来の意味で蘇生してきている。様々な人口学的指標がそれを表しており、出生率も上昇に転じています。2001年には女性1人につき子供1.2人だったのに、2013年には子供1.7人というところまできている。40%増です。
 一方、ウクライナはここ25年間、危機の中にいます。出生率の数値も低い(女性1人あたり子供1.5人)。もっとも、ドイツ、中央ヨーロッパ、そして地中海沿岸ヨーロッパの災厄ともいえる水準よりはマシですけれどもね。
 しかも一番悪いことに、あの国は、教育を受けた青年層が国外へでて行ってしまうことで苦しんでいます。独立以来、ウクライナはそのようにして、人口の10分の1以上を失い、5200万人の人口は4500万人になってしまいました。
 これは大変な現象で、規模の大きい国では類例がありません。
 人口学が教えてくれること、それはウクライナ社会の静かな解体が進行しているということです。南ヨーロッパでサブプライム危機以降、非常に低い出生率と高学歴青年層の流出が重なっているのと同じです。異なるのは、ウクライナではそれが最近の現象だということで、その原因は知られていますね…。

BirthRate2010ua
(ウクライナ共和国の出生率 出典:ウクライナ共和国ーWikipedia

3000km-S
(出典:今中哲二氏 チェルノブイリ事故におけるセシウム汚染) 

 ウクライナは1986年にチェルノブイリ事故に伴い、大規模な放射能汚染に見舞われましたが、西部地域、および南部地域はチェルノブイリでの放射能汚染が比較的少なかったこともあってか、出生率が高い地域となっています。一方、チェルノブイリ原発のあったウクライナ北部、および放射性物質による汚染の激しい地域は出生率が低くなっています。この点はウクライナの人口動態を基にして論ずるうえで、無視できない要素だと私は考えます。

 ただ、教育を受けた若者が大量に流出してしまうという構造は大変由々しき事態であると考えます。日本も国土の1/3に放射性物質が大規模拡散している点は共通しているだけに、ウクライナの人口動態と社会動態については注目したいと思います。

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