第3章 ウクライナと戦争の誘惑
家族構造からみたロシアとウクライナ
(p.95-96)
ーしばらく前にはグルジアの機嫌をとっていたヨーロッパの政治指導者たちが、今度はウクライナの機嫌をとっています。そして2013年の秋からのユーロマイダンでの騒擾(「ユーロマイダン」は首都キエフにある「欧州広場」のこと。2013年-2014年にここを中心に、当時のヤヌーコヴィチ大統領による欧州連合協定調印棚上げに反対して行われた大規模な反政府デモ)以来、フランスで、またヨーロッパのほとんどの国々で、世論にもウクライナへの強い共感が表れています。人類学者として、この感情を共有しますか?

 人々は地図に目をやり、ウクライナがロシアよりも西にあるのをみます。そして、ロシアよりも西だから当然「西洋的」と思うわけです。それは間違ってはいません。
 ロシアとベラルーシの特徴は共同体家族構造にあります。つまり、家長と息子たちの家族が同じ屋根の下で暮らすのです。
 それに対してウクライナは、イギリスやフランスのパリ盆地で出会う家族構造に類似した核家族構造を特徴としています。つまり、パパとママと子供達という構造です。
 このような差異を私が抽出したのは、スターリン時代の人類学博士論文からではありません。19世紀のある歴史家で、「ロシア皇帝の帝国とロシア人達」という分厚い(1991年にブカンシリーズ中で復刊、1400ページ)を書いたアナトール・ルロワ=ボーリューの仕事だからです。
 こうした差異があったがゆえに、スターリンはさほど苦労せずに大ロシアの大地を集産化できたのに、小ロシア(キエフ地域)では同じようにすることがついにできず、自分に抵抗するおびただしい数の農民達を皆殺しにしなければならなかったのです。(1932-33年にかけてウクライナで旧ソ連が行った人工的大飢饉により数百万人が殺された)。
 では、そこから引き出す結論として、ウクライナ人たちはロシア人たちよりもわれわれに近いといえるでしょうか?注目すべきことに、フィリピンのタガログ族も個人主義的な核家族構造を持っています。だからといって彼らは、われわれに近いでしょうか?ちょっと考えにくいですね。

 ウクライナの家族型は、ロシアとは異なり、絶対核家族または平等主義的核家族を取っているようです。ウクライナでは1930年代に大規模飢饉が発生し「ホロドモール」と呼ばれています。ウクライナは穀倉地帯ということもあって食料の徴発が激しかった影響と私は思っていましたが、トッド氏は家族型の違いにより、価値観や社会構成が異なるため、ソ連(ロシア)のやり方に対してウクライナ国民が拒否感を示したためと考えているようです。

 ウクライナはロシアと「家族型が違う」、つまり価値観や社会構成がロシアとは異なり、相容れない場合があるということを理解する必要があると感じました。

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