第2章 ロシアを見くびってはいけない
ロシア経済の二つの切り札
(p.91-92)

ーあなたはロシア社会がうまくいっていると断言されるわけだが、経済はどうですか。うまくいっていませんよね。

 経済の領域には立ち入りすぎないようにしたいと思っています。ただ、ロシアの成長率1.4%と失業率5.5%は、オランド大統領を羨望で青ざめさせるに十分だということには注目しておきたいですね。我が国の大統領をあまり打ちのめしてはいけないので、ロシア大統領の支持率については何も言わないでおきますけれども。
 もっとも、ロシアが主として地下資源の開発に依存する「不労所得経済」によって、また、ますます農業によって生きているというのは本当のことです。それ以外の点に関していえば、ロシアは従来からの産業で残っているものを護ることを目的とする保護主義経済にとどまっています。
 あの国の切り札は2つです。潜在的な富に満ちた1700万平方キロメートルの広大な国土と、80万人のユダヤ人がイスラエルへ去ったとはいえ、それでもなお、ハイレベルの科学者たちを擁する1億4400万人の人口(2013年)です。
 この二つの切り札がプーチンの戦略を決定しています。国土とその資源を優秀・有能な軍隊で守りながら、世界経済がアジアと新しいテクノロジーへと移行を完遂するのを待つという戦略です。彼が別の選択をして、労働力を必要とする工業を迎えたり、消費財の輸出産業を発展させたりするということは考えにくい。

ロシア経済成長率

(出典:世界経済のネタ帳)

 ロシアの主産業は農業と鉱業で、最近原油価格が暴落している上に2014年より経済制裁を受けているため経済成長率はマイナスになる見込みとなっています。とはいえ、リーマンショックでの落ち込みこそあれプーチン政権下に入ってからは成長していることが伺いしることができます。

フランス経済成長率

(出典:世界経済のネタ帳)
 一方、比較として掲載しますフランスの経済成長率は、産業構造の違いこそあれどオランド大統領就任以後は0.2%前後と低調に推移しております。フランス人であるトッド氏としてはあまり触れたくないのは致し方ないかもしれません。

 とはいえ、ロシアの持久戦の戦略「アジアと新しいテクノロジーへと移行を完遂するのを待つ」というトッド氏の分析は私には意外でした。

Follow me!