第8章 ユーロが陥落する日
戦争なき独裁
(p220-221)

 -いわゆる恐怖の均衡が核兵器の領域から金融の領域に移ったように見える今日、われわれはヨーロッパ内で戦争を起こさずに済ませることができるでしょうか?

 戦争が起こるぞという脅かしは、システムが振り回す様々な武具のうちの一つです。この疲れ果てた大陸で起こりようのないものがあるとすれば、それは戦争ですよ。誰もこの地域を侵略しては来ません。危険は、生活水準の低下や教育システムの内部炸裂や公共サービスの破壊から来るのです。
 以上のことを確認した上で言うのですが、権威主義的体制が敷かれることはありえます。とりわけフランスでは、緊張状態にある自由主義的な価値と平等主義的な価値の組み合わせが、ボナパルティズムに帰着することがありうる。もし生活水準の低下が加速するなら、もし左翼が金融システムのコントロールの再会や、ヨーロッパの再編成のようなオルタナティムを提案する器量を持たないなら、もしその結果、保守派が権力の座にとどまるなら、われわれはいうまでもなく権威主義的な体制に行き着くでしょう。
 現在の共和国大統領の決定はすべてそのような体制の確立を目指しています。メディアの掌握から、警察と憲兵隊の合体に到るまで、すべてです。治安維持の組織が別々に二つあることは共和主義の偉大な伝統ですが、これがデモクラシーの保障の一つであることがわかりますね。
 こういうわけですから、われわれは戦争なき独裁を経験する可能性があります。すでにそうなっているんじゃないかな…?

 トッド氏としては、フランスは自由と平等を両立させる体制が自然で望ましく、ドイツのような直系家族型の権威主義的な体制を嫌っている様子がありありと伺えます。「治安維持の組織が別々に二つあることは共和主義の偉大な伝統」とあるのは、治安維持組織同士で相互確認、牽制を行うことで独裁を阻止するという意味にとらえました。