第8章 ユーロが陥落する日
ドイツ経済がヨーロッパの民主主義を破壊する
(p214-216)

 -最近ギリシャとイタリアで国民投票が禁止されたり、政府首脳が免職されましたね…
 
 近年追い詰められた国は主にギリシャとイタリア、そして遠からずスペインとポルトガルも同じ運命にあるわけですが、これらの国々の民主主義的伝統は比較的最近始まったのであり、脆弱です。
 ヨーロッパはリベラルなデモクラシーの大陸とみなされてきましたが、今では、デモクラシーをそれが生まれたばかりの地域で破壊するマシーンになってしまいました!
 一見、指導的立場に立っているドイツは、フランスよりも健全なデモクラシー国家であるように見えます。ドイツでは、労働組合が労働者たちを代表する機能を今日でも果たしているし、極右や極左の勢力も他の国々に比べればさほど目立っていません。全体としてうまく回っているように見える。
 アンゲラ・メルケルは世界中の人々の目にも、ドイツ国民の目にも、デモクラシーを脅かすような不安をもたらす人物とは映っていません。その点、現在のフランス共和国大統領サルコジとは違います。
 しかしながら、ヨーロッパという空間の中でドイツの経済的スーパーパワーを検討すれば、それが、半製品の生産拠点をユーロ圏外の東ヨーロッパへと移転するといった利己主義的な経済政策を手段として形成されていることが発見されます。
 ドイツではここ数年、賃金が据え置かれたり、引き下げられたりしています。ドイツの社会文化には権威主義的なメカニズムがあって、国民が相対的な低賃金を甘受するので、ドイツの政府と経済界はその面を活用し、ユーロ圏の各国への輸出を政治的に優先したのです。ベルリンが最大の貿易黒字を実現しているのはユーロ圏内においてです。
 ヨーロッパのパートナー国の利益に反するこのような政策はことごとく、しばしば社会民主党をも含む連立内閣によって実施されました。これは結局のところ、真の政権交替というデモクラシーの原則を揺るがせる事態です。
 こうして、問題は歴史の酷い再来という形をとって現れてくる。ヨーロッパシステムにおけるデモクラシー退化の中心的なファクターは、実はドイツではないでしょうか?

 -アテネからマドリードまで、各地で群衆がすでに、(ヒトラーの第三帝国に続く)第四帝国だ! と叫び始めています。

 うんざりだという気分が誇張表現を呼んでいるのです。
 しかし、もし誰も今何が起こっているのかをあるがままに言わなければ、抑圧されている人びとは自分たちが否定されているという印象を持ってしまいます。物事が適切なレベルで指摘されていません。何しろニコラ・サルコジがあらゆるものに文句をつけるから。ヨーロッパにはもはや平等な国際関係は存在しません。
 ドイツ人たちが本質的に横柄なのではありません。彼らは中央銀行による管理にいろいろ文句をつけました。確かに平等性の弱い社会ビジョンを持つドイツにとっては、財政赤字をEUが共同で引き受けるのは越えがたい障害に見える。けれども、まだ手遅れにならないうちにあの国に譲歩させることはできたでしょう。

 現在ヨーロッパは中東やアフリカ各地からの難民が集まってきておりその対応を巡って紛糾しています。この発端は「デモクラシーを脅かすような不安をもたらす人物ではあい」メルケル首相が難民を受けいえれることを唐突に宣言したためであり、そのことによって、民主主義の基盤が脆弱で、かつ難民が一番最初に到着する南欧諸国や東欧諸国に莫大な負担をかけてしまっております。このことからもデモクラシー退化の中心的なファクターはドイツであるというトッド氏の読みは正しいことが証明されました。
 今後はドイツの唱える一方的な政策にEU各国は引きずられ、表立って反対できないような雰囲気に包まれるような感じを受けます。