第7章 富裕層に仕える国家
政府債務のデフォルトを宣言したらどうなるか?
(p195-197)

 -そうかもしれませんが、「人質」、つまりフランス人の少額預金者やアメリカ人の年金生活者にとっては、そのデフォルトは公然横領行為そっくりですよ。
 
 いや、われわれから横領しているのは貸主なのです! どうして捕食者が現在残っている国家資産をぐいぐいと呑み込んでいくのを放置しておくのですか?人質に関して言えば、フランスでは少額預金者を保護するために銀行の国有化が不可欠です。
 一方、アメリカの少額年金所得者のことで泣き真似をするのはおかしい。アメリカは何年も苗から世界から資金を還流させる掛け買いで生きてきたのですよ。
 それに、フランスの政府債務の三分の二を握っているのは少額年金所得者ではありません。加えて、フランスが政府債務のデフォルトをやれば、他の国々の連鎖的デフォルトにつながるでしょう。
 この全般的再配分の中で、デフォルトの大部分は相殺されるでしょう。むろん、いくつかの国は損をするでしょうね。
 そうして最終的には、これを私は保証してもいいと思うくらいなのですが、国にせよ個人にせよ、この債務危機の発生に対して最も大きな責任のある者が最も厳しく罰せられますよ。

 -われわれの政治指導者たちが怖気付くのも無理はないですね。

 社会のイデオロギー的・知的難破が明白であればあるほど、その社会の上層部にいる人びとは支配者としての自分たちの言説に深く陶酔し、公共財の売却や賃金の引き下げを強く要求します。そして権力は、一種のミュンヘン講和条約的な現実否認に逃げ込みます。穏健で専門的能力ありと推定されている人びとが、愚劣なシステムを設置しただけでは満足できないらしく、そのシステムの崩壊を上手く乗り切る用意のない状態にわれわれを置くのです。
 威圧されるがままになってはいけない。高いレベルの教育とテクノロジーを具えた先進社会は、いま問題にしているような種類のシステム全体が崩壊しても後の社会に十分適応できます。
 われわれは非常に困難な一年を過ごすことになるに違いありません。しかし、たちまちのうちに、様々なエネルギーとリソースの解放によって新たな将来が見えてきます。凡庸で腐敗したエスタブリッシュメントたちの正当性失墜は、とりもなおさず、我が国の若返り、1940年の時よりは痛苦の少ない一層、ドイツ国防軍の厄介になることを抜きにした一層となるでしょう。

 
 第7章の紹介はこれにて終了です。トッド氏は国家に巣食う寡頭富裕層を打倒し、民衆に公平に富を行き渡らせるようにするには、フランス政府債務デフォルトを宣言し、その後に発生する各国の連鎖的デフォルトによって達成できると考えているようです。

 私が注目したのは「高いレベルの教育とテクノロジーを具えた先進社会は、いま問題にしているような種類のシステム全体が崩壊しても後の社会に十分適応できます」という点です。日本も財政危機が著しく、輪転機を回すか、デフォルトを宣言するかの二択になりますが、そういう社会で生き残りを図るためには教育を受け資格を取得しておく必要があると感じた次第です。

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