第7章 富裕層に仕える国家
1930年代の対立が再来!?
(p191-194)

 -ふざけて、私たちを恐がらせようとしているのですか?

 私はふざけてなどいません。だけど、恐がった方がよいと思いますよ。
 民主主義的にコントロールされない官僚支配を経験したか、あるいはそうなりかねなかった国としてギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルがあり、これらの国々はデモクラシーの歴史が浅いのです。
 そもそもこの諸国をヨーロッパとユーロ圏に統合したのは、民主主義的な空間の中で安定させるためでしたね。ところが今日、ヨーロッパの官僚的・通貨制度的なメカニズムは、まだ土台が堅固とはいえないこれらの国のデモクラシーに安定をもたらすどころか、これらの諸国を過去の不安定期のうちでも最悪だった時期に似た状況の中へ加速度的に追い込んでいる。
 そうですとも、事態は深刻です。ファシズムのイタリア、軍事政権のギリシャ、フランコのスペイン、アントニオ・サラザールのポルトガルなどの復活に直面するリスクは十分に現実的です。
 恐がらせてほしいとおっしゃるのかな? それなら言いますが、人口学者としての私には、1930年代の対立がふたたび現れてきているのが見えます。
 自由主義的なデモクラシーの北西ヨーロッパでは出生率は女性一人あたりの子供の数が1.9人ないし2.0人の水準に接近して行っているのに対し、権威主義的で、かつてファシズムやコミュニズムに支配されたヨーロッパの地域では、出生率が極めて低く、同じ基準での子供の数の平均が1.3人から1.5人なのです。
 それにしても、もしドイツがヨーロッパ中央銀行の介入能力に関するどんな交渉にもあくまで否定的なら、われわれはどうすべきでしょうか。ユーロのために死ななくてはいけないのでしょうか? そんなバカなことはないでしょう!
 ドイツがヨーロッパ中の保守派があの国に捧げる讃嘆の声に酔いながらパートナーであるはずの国々を跪かせていくのを目の当たりにするのは悩ましいかぎりですが、強迫観念に呑み込まれてはいけないと思います。
 思い出しましょう。ドイツはもともとユーロの話など聞きたくもないというふうだったのです。ユーロが創出されてからもしばらくはずっと、ユーロ圏から離脱するぞという脅かしを繰り返していたではありませんか。
 今日では、ドイツの政府と経済界の上層部はすでに、ユーロの終焉があの国にとって決定的な打撃になるであろうことを理解しています。なにしろ、ドイツだけが平価切り下げに踏み切れないでしょうから。
 現実には、ドイツ人たちは一般に思われているのよりも柔軟なのです。ただし彼らは率直で遠慮会釈のない交渉でなければ理解しません。

 
補章

 トッド氏の「権威主義的で、かつてファシズムやコミュニズムに支配されたヨーロッパの地域では出生率が極めて低い」という言葉に触発されて、平成18年度の内閣府発行の少子化社会白書(補章)を調べてみましたが、まさに本当でした。

 また、ユーロ自体についてはドイツは当初は導入反対で、脱退も考えていたということにも驚きましたが、今となってはドイツこそユーロが必要な国になってしまっています。これは、ユーロを実際に運用してみてドイツ(およびドイツに投資している寡頭富裕層)にとって実は他国を支配できるツールとして使えるということに気づいたのではないかと思います。

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