第7章 富裕層に仕える国家
ドイツにストップをかけるのがフランスの使命
(p189-190)

 -ドイツの社会経済モデルにフランス側が魅了されるという現象は、ドイツ嫌いの擡頭と対になっていますが…。

 反ユダヤ主義と親ユダヤ主義がユダヤ人問題への病的なまでに過剰な関心の二つのバージョンであるように、ドイツ嫌いとドイツ崇拝はドイツを大真面目に捉えすぎる傾向の二つの様態であり、このことは問題を悪化させる方向へと働きます。
 現在の大統領任期(5年間)の当初、ニコラ・サルコジはかなり反ドイツ的なポジションにいて、経済問題におけるドクトリンでは一定程度柔軟な態度を採っていました。
 しかし、フランソワ・フィヨンが首相官邸の主人にとどまり、元首相のアラン・ジュッペが今年2011年の2月末に外務大臣に任命されたことで、オーソドックスな保守派とその古臭い考え方の返り咲きがはっきりしました。その頃から、政府とフランスのエリート層のかなりの部分がドイツ崇拝的な言説を弄するようになりました。
 その種の言説は他でもないドイツに取っても危険です。仲良しではあるが批判的でもあるフランスというパートナーを失って、ドイツは自らの社会経済モデルの自讚に閉じこもりました。いま緊急を要するのは、ドイツを褒めそやしてイケイケにすることではなく、ストップすることです。

 -まさかドイツのことを不浄の獣のように言う音頭をとりはしないでしょうね? ドイツは既に半世紀前から堅固な民主主義と一体なのですよ。

 政権交代よりも好んで国民一致を実践する国を民主主義的と形容するには、私は必ずしもなれません。しかもドイツでは、国民に規律を重んじる人類学的素養があるおかげで、こともあろうに社会民主党が給与水準抑制策をたいした抵抗も遭わずに実施できたのです。
 ドイツは申し分なくエゴイスティックな戦略で自由貿易に適応しましたよ。国内産業の向上を部分的にユーロ圏の外に移転し、フランス、イタリア、スペインに対して競争的なディスインフレ政策を実施し、それからユーロ圏をまるごと捕獲した市場のように使って、そこから巨額の貿易黒字を引き出したのです。この交易戦略は-クラウゼヴィッツの「戦争論」に倣っていえば-別の手段をもってする権威主義的・不平等主義的伝統の継続です。

 
 このインタビューは2011年に行われたもののため、以前の章のものと内容が重複しているところもありますが、この時点ですでにドイツが巨額の貿易黒字をEU圏内諸国から稼ぎに稼いでいる一方、フランスはドイツを礼賛することでに自主的にドイツへ隷属し、ドイツに対して一言も批判しなくなった様子が伺えています。
 また、「仲良しではあるが批判的な人たちを失って、自らの社会や文化に関して自画自賛する」という指摘は、テレビ番組や新聞書籍でよく見かける言説となった今の日本とっても耳が痛いと感じた次第です。
 

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