第7章 富裕層に仕える国家
金持ちたちのケインズ主義
(p186-187)

 -それはあなたのお気に沿うことだったでしょうね。

 ところが問題がありました。金持ちたちのケインズ主義だったのです。
 景気刺激の財源を貨幣創出-「輪転機を回す」というやつです-で賄えば国家に負担なく済むのにそうはせず、借り入れで調達したのです。
 もこれでは、金持ちのお金の安全を確保するばかりで、需要不足にはいささかも根本的な答えとなりません。この贋ケインズ主義は中国の成長を励まし、株価をつり上げ、ヨーロッパにおける産業の国外移転を加速しました。とどのつまり、「国家のカムバック」は金持ちたちの社会主義の確立にほかならなかったのです。
 国家は富裕層を救うミッションを負う、コードネームは「銀行」、というわけです。なぜなら、フレデリック・ロルドン(フランスの経済学者。1962年生まれ)が見事に言ったように、銀行は一般市民への弁済手段をも掌握しているので、自らの富裕な株主たちのために国家を人質にしたのです。
 もし銀行国有化の道を選択していたら、普通の人々の経済を保護し、少額預金者の損害を補償し、有罪人に制裁を加えることができたでしょうに。
 国家は無力ではない。しかし、寡頭支配層に支えている。これが現代の真実なのです。

 
 昨日の続きです。本来ならば資金の調達は輪転機を回して市場にお金を回す能力が政府にはあるにもかかわらず、借入という形でやったため、政府はますます寡頭支配層らによる債務奴隷になってしまったというのがトッド氏の主張です。
 ケインズ経済学の基本は「有効需要を意図的に創出して不景気を乗り切る」方法ですが、借入では構造上どうしても将来にツケを回すので限界があるということになります。

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