第7章 富裕層に仕える国家
寡頭制(富裕層)は貴族制とは異なる
(p182-185)

 -でも税金も、デモクラシーの大事な基礎ですよね。ギリシャで見られるように、それをきちんと納めるのを嫌がる市民でも犠牲者と言えるのでしょうか?

 私としては、すでに言ったことを繰り返すしかありませんね。周りがギリシャ人に借金をするように仕向けて、彼らの首を従来以上にうまく締めようとしたのです。
 テレビをご覧なさい。絶え間もなしにCMが、われわれに融資を受けろと教唆しているではありませんか。
 銀行は、いや、金持ちたちは、貸すことを好むのです。そして、高利貸したちは返済のできない人の財を差し押さえるのが好きなのです。たとえば、ギリシャの国家財産を私有化したがっているのです。

 -あなたはちょっと陰謀論者じゃないですか? たとえ「周り」に仕向けられたのだとしても、本人の責任はどうなるのですかね…。麻薬中毒患者が依存症状を呈しているとして、悪いのは売人だけですか?
 
 寡頭支配の世界は権力と陰謀の世界ですよ。
 ギリシャの国家が会計をごまかすのを助けたゴールドマン・サックスは高利貸しのような振る舞いをしました。今、人びとがギリシャ人を「助ける」と言っていますが、それはお金を脅し取られる立場に彼らを留め置くということです。ユーロ圏の危機を創り出したのは基本的に、借り手の呑気さではなく、貸し手の攻撃的な態度です。

 -その寡頭支配者たちをあなたはひとつの社会階級のように定義するのですか? そしてその場合、寡頭支配者たちは階級意識を持っているというのですか?

 寡頭支配者たちはひとつの社会階級のように振る舞います。しかし同時に、彼らの内には非合理性や、さらには集団的狂躁のようなものさえも感じられます。
 ですから私は、マルクス主義的なイデオロギー分析によるべきか、精神医学に拠るべきかを自問しています。とはいえ、特権的な立場にいる社会グループは、必ずしも頽廃していず、無責任でもありません。18世紀のフランス貴族たちは租税免除に執着していましたが、それとは違ってイギリスの上層階級は高率の租税圧力を受け入れていました。その彼らが世界を征服したのです。
 その例から、現在の寡頭支配者たちは千里も離れています。もしこの言葉が反ユダヤ主義のスローガンを思わせることがないのならば、金権支配という言い方をする方が好ましいでしょう。いずれにせよ、次のことをしっかり覚えておきましょう。少数派の支配であるおりがるキー(寡頭制)は、語源的に最も優れた者の支配を意味するアリストクラシー(貴族制)とは違うのです

 
 2011年の時点でもギリシャでは債務問題がありましたが、その当時からギリシャにこれ以上緊縮財政を強いるのは危険だと事実上分析したトッド氏の視点は、2015年のギリシャ危機の時にIMFが債務免除の方向で進めるべきという意見を先取りしたようなものと感じました。
 私には寡頭制も貴族制も似たようなものと思っていましたが、この章でトッド氏が一貫して「貴族制」という言葉を絶対に使わず「寡頭制」という言葉だけを使っていた理由がよくわかりました。

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