第6章 ドイツとは何か?
ゲルマン人の家族構造とドイツ経済
(p155-156)

 -ドイツ人たちは、自分たちのことがそんなふうに話されるのを、つまり、まるでわれわれと異なる人間であるかのように話されるのを聞いたら、ショックを受けるのではないですか?

 いいえ、それどころか、彼らはあるがままの姿で存在する権利をようやく手に入れてほっとすることでしょう。なにしろ、フランスの伝統とは違って、ドイツの文化的土台は普遍的人間という理念ではないのです。
 ドイツ人にとっては、文化は国や地域で大きく異なる、そしてそれぞれの経済的適性も異なる、と考えるのが自然なのです。
 例を引きます。ちょうど、非常に面白い本を読んだばかりなのですよ。
 ドイツでコンサルティングファームを経営しているハーマン・サイモンが書いた「グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業-あの中堅企業はなぜ成功しているのか」(上田隆穂漢薬、渡部典子役、中央経済社、2012年)がそれです。この本が世界中を視野にいれて研究したのは、特定のニッチに対して品質とテクノロジーで決定的強みを持ち、グローバリゼーションを利用して成功した中小企業です。
 著者は、ゲルマン人の世界-ドイツだけでなく、スイスのドイツ語圏、オーストリア、スカンジナビア-がこの種の企業を産み育てやすい土壌だと言っています。要するに、この分析は経済のエスニックなビジョンを提示しているのです。著者は、これらの企業が農村部に入り込んでいることや、その権威の構造に家族的・家父長的性格が見られることを強調しています。

 -サイモンの言っていることを信じるべきでしょうか?

 サイモンが描写している法則は絶対的なものではありません。類似の輸出中小企業の多いゾーンは日本にも、ヴァンテ地方やローヌ=アルプ地方など、フランスの2、3の地域にもあります。サイモンが注目した現象は、ドイツのケースを超えて、地球規模で人類学的分析の対象になるものです。

 
 サイモン、およびドイツの中小企業関連について補足いたします。
 ハーマン・サイモン氏はドイツ人の経営コンサルタントです。ドイツの産業は、中堅・中小企業が企業数の99.6%、従業者数の79.2%、付加価値の51.8%を占めており、まさに中小企業こそが経済を支える重要なプレーヤとなっています。

 ドイツの中小企業の強みは、建設業しんこうWebに記載の、エコノミストが現地で聞いたドイツ中堅・中小企業が強い「5つの理由」のコラムによると
 1、産業用機械から電子機器、生活用品などさまざまな業種で、各企業が特定の分野(ニッチ領域)で、強い競争力を有する。
 2、国内市場が限られていることもあり、始めからグローバル市場が経営戦略に組み込まれ、グローバル化を積極的に進めている。
 3、優秀な人材を確保できている。
 4、長期的視野にたった経営が行える家族経営の非公開企業である。
 5、自らの販売ルートで世界中の顧客にアクセスし、不況下でも政府の支援に頼ろうとしない、経営に強い独立性、自立性が見られる。

という特徴が挙げられております。

 日本、および日本人の場合においては、人口や市場がドイツよりも大きかったため国内市場だけで十分と考えられてきたため2、3、5の部分に欠けている点が多々ありますが、少なくともサイモン氏の提示した「グローバルニッチ」については、日本でも実践している企業があるので比較的馴染みがあるように考えられます。

 そのためトッド氏は、ドイツと日本は同じ直系家族という家族型のため、地球規模で人類学的分析の対象になると本書で言及しているのです。
 ドイツの行動パターンは、すなわち日本人の行動パターンに近いと思われますのでトッド氏の本書の内容の理解により努めていきたいと思います。

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