第6章 ドイツとは何か?
単独行動を始めたドイツ
(p153-155)

 一例を挙げておきましょう。大陸全体にかかわるマターであるにもかかわらず、ドイツは近隣国とどんな事前協議もすることなしに、脱原発を選びましたね。この政策はロシアとの戦略的合意を予想させますが、誰ひとり、特にエコロジストは、公共の場での討論でこの点に言及しません。
 ドイツに対するフランス側のノイローゼ、すなわち、ドイツをあるがままに見ることのできない精神状態が現実に存在します。その精神状態のせいで、ドイツがヨーロッパの連帯といった考えから隔絶した特異な戦略を相当なところまで作り上げているのを直視できなくなっています。
 イギリス嫌いの系譜に連なる幾人かのヨーロッパ統合優先主義者たちは、ヨーロッパ経済危機の最後の段階でイギリスが孤立したことを喜びましたね。彼らは健忘症です。
 フランスのいちばん最近の戦争が、変わらぬ同盟国イギリスと組んでリビアに介入し、ドイツの否定的な視線を浴びながら遂行した作戦であったことを早くも忘れてしまったようです。
 一方、ドイツの態度は申し分なく一貫しています。ドイツは、それが可能な時には毎度、地中海におけるフランスの行動に立ちはだかろうとします。あのアンリ・ゲノー(2007年5月から2011年5月まで、サルコジ大統領の特別補佐官)からして、ドイツの一貫した戦略の犠牲者の一人です。彼が構想した地中海連合をノックアウトされましたからね。

 
 「ドイツの脱原発政策は、ロシアとの戦略的合意を予想させる」というトッド氏の読みは、本書の第1章での”ガスパイプライン問題-争点は「ロシアVSウクライナ」ではなく「ドイツ」VS南欧」”でも紹介しましたが、ロシアから延伸される「ガスパイプラインの終着点がドイツ」であるという事実を踏まえると、ドイツの脱原発政策は、結局のところエネルギー資源はフランスの原発電力ではなく、ロシアの廉価なガスを購入することで対応するためであると考えられます。

 また、ロシアからのガスの元栓をドイツが握り続けるためには、フランスや南欧諸国向けに直接供給されるパイプライン「サウス・ストリーム」の建設を阻止する必要があります。当然、ドイツとしては、フランスが構想し、南欧諸国が連携する地中海連合は何が何でも潰す必要があるわけです(サウス・ストリームは結局建設中止となりました)。

 シリア難民問題でもドイツは他国と一切協議せずに、メルケル首相は難民をEUで受け入れることを突然表明し、EU諸国は難民の来襲とフランスパリ連続テロ事件により混乱しています。ドイツは事前協議なしに政策を決定するのは「習性」であると言わざるをえません。
 
 以上を踏まえ、ドイツが当面とる策としては、シリア難民問題の解決のためにロシアの軍事介入を支持し、その見返りとしてクリミア半島併合に伴う西側諸国の経済封鎖、および石油ガス価格の暴落に悩んでいるロシアから、ガスを市場価格よりも高値で長期契約で購入し、トッド氏の見立て通り、ロシアとドイツは戦略的提携を図るものと考えられます。当然この事項もEU諸国に何も諮らずに決定するのは言うまでもないでしょう。

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