第6章 ドイツとは何か?
ドイツの特異性とは何か?
(p150-152)

 -ドイツのその特異性とは何なのかを明確に教えてくれませんか?
 
 ドイツはグローバリゼーションに対して特殊なやり方で適応しました。部品製造を部分的にユーロ圏の外の東ヨーロッパへ移転して、非常に安い労働力を利用したのです。
 国内では競争的なディスインフレ政策を採り、給与総額を抑制しました。ドイツの平均給与はこの10年で4.2%低下したのですよ。
ドイツはこうして、中国-この国は給与水準が20倍も低く、この国との関係におけるドイツの貿易赤字はフランスのそれと同程度で、2000万ユーロ前後です-に対してではなく、社会文化的要因ゆえに賃金抑制策など考えられないユーロ圏のほかの国々に対して、競争上有利な立場を獲得しました。
 ユーロのせいでスペイン、フランス、イタリアその他のEU諸国は平価切下げを構造的に妨げられ、ユーロ圏はドイツからの輸出だけが一方的に伸びる空間となりました。こうしてユーロ創設以来、ドイツとそのパートナーの国々との間の貿易不均衡が顕著化してきたのです。
 よく吹聴されていることに反して、ヨーロッパのリアルな問題はユーロ圏の内部の貿易赤字です。貿易赤字を遠因とする現象に過ぎない歳出超過予算ではないのです。
 ドイツのこのような政策は、明白なこと、誰もが知っていることとして、何年も前からグザビエ・タンボーやパトリック・アルテュのような「主流派」経済学者たちをも含む多くの専門家たちによって分析されてきました。
 ドイツについて語るのを控え続けることは、とりもなおさず、ユーロの危機についてのよい診断書を提出することを自らに禁じることです。
 したがって、いったいなぜ、大統領サルコジ、首相のフィヨンおよび外相のジュッペが彼らのスピーチの中で、ドイツのこの非常に特殊な経済的戦略に言及しないのかを問う必要があります。

 

 この本の書評を開始するまで、ドイツの貿易黒字は主としてアメリカなどに輸出しているのだろうと思っていましたが、実はほとんどが欧州圏内での貿易であるということを知った次第です。(参考:JETRO輸出統計 ドイツ
 と、同時に、ドイツが東欧諸国に対して行っていた製造業移転は、日本でも中国や東南アジアへの製造業移転が当たり前に行われていたので私にとってはこれは「ごく普通の政策」だと思っていたのですが、フランス人のトッド氏にとっては「非常に特殊な戦略」という分析は私にとって大変意外でした。
 
 直系家族と平等主義的家族との考え方の違いを改めて感じた次第です。

Follow me!