第5章 オランドよ、さらば! -銀行に支配されるフランス国家
オランド大統領にした助言
(p144-146)

 -二、三ヶ月前、大統領があなたをエリゼ宮(大統領府)での朝食会に招きましたね。彼にどんな助言をしましたか?
 
 ほんの僅かしか憶えていないのだけれど、憶えていることの一つは、彼がプロテスタンティズムのヨーロッパが存在していることを意識したといい、フィンランド人がドイツ人にも増して非妥協的だということについて冗談を言っていたことだね。
 私が大統領に示唆したのは、ユーロが今後存続していけるかどうかについての検討委員会を設置し、そこに正統派の経済学者たちと、ジャック・サビール、ジャン=リュック・グレオ、ガエル・ジロー、ポール・ジュリオン、フレデリック・ロルドンのような批判的経済学者たちの混合形態にすればいいということだった。そんな委員会が存在していれば、それだけでドイツに睨みをきかせ、ユーロ安へとプッシュすることになっただろう。
 しかし、フランスの指導階層の知的・道徳的な至らなさの究極の証拠がここに現れたね。極右政党(国民戦線)を別にすると誰一人、ユーロの存続可能性という問題を提起しないのだ。絶え間もなくユーロを救うために、失業率をウナギのぼりにし、所得を押し下げる結果になっているというのに。
 <左翼党>のジャン=リュック・メランションでさえ、ついにそれができない。社会党左派、マリ=ノエル・リーヌマンやエマニュエル・モレルたちもそれだけの器量がなく、自由貿易経済においては不可能で、ドイツの産業力をよりいっそう強化することにしかつながらない景気刺激策を提案する始末だ。
 そして、フランスでは中心的制度とさえいえる「ル・モンド」紙や、オールタナティヴを謳っているはずの雑誌「アルテルナティヴ・エコノミック」のユーロ贔屓迎合主義については、何をかいわんや。こういったことすべての方向をチェンジするに到るには、オランドはドゴール以上の器でなければならない。
 ところが、彼は言ってしまったのだ。自分は「普通」でしかないとね。(大統領当選直後、オランドは、奇矯な振る舞いの多かったサルコジ前大統領との違いを際立たせるべく、「普通の」大統領になると表明した)さらに、「並み」だとさえも言ったのだ。
 わずかに残っている希望を、私は議会の反抗に捧げようと思う。
 私の幻想はどんなものかだって? 国民議会が大統領によって、いや失礼、銀行システムによって解散させられる。ところが議員たちが、いい加減にしろと激昂した社会を支えにし、それぞれの選挙区へ散っていくことを拒否する…。しかし人は、オランドのことを一度真面目に受け取ってしまった人間のことを、真面目に受け取ってくれるかなあ? 
 

 第5章の紹介はこれで終了です。トッド氏はユーロという通貨がもつ、固有の特性からくる悪影響(自国の通貨であれば中央銀行による通貨切り下げ政策や利上げ政策などが弾力的に行えるが、共通通貨であるがために、盟主であるドイツの意向を無視した弾力的な運用が不可能)をはっきりと認識しており、その打開策は、フランスの大統領の聡明なる決断をもって他にないと考えていました。そこで彼は、オランド大統領との朝食会という席上で、意を決してユーロの存続可能性委員会というものを提案したのですが、オランド大統領には全く理解されなかったようでその失望と焦燥がありありと浮かびました。

 オランド大統領は凡人であるということが私にもはっきりと伺えました。今、フランスはパリ同時多発テロの発生を受け、強硬策を次々と行っておりますが、オランド大統領自体が凡人であるため、今後繰り出すであろうフランスの対テロ戦の数々の政策は、おそらくドイツやロシアが想定した通りのことをただ実行するだけという感じになるのではないかと考えます。

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