第5章 オランドよ、さらば! -銀行に支配されるフランス国家
社会党の「銀行寄り路線」
(p134-136)

 -5年の大統領任期の初め、スケープゴートは金持ちたちで、指差されていた敵は金融機関でしたね。右派のメディアは今日でもなお、富裕層に対する集中的な課税という強迫観念をしきりに持ち出します。たとえば金融取引への課税を決めた氷結。ああいうのはあなたの目には完全なはったりと映るのですか?
 
 金持ちたちはスケープゴートなんかじゃない。問題そのものだよ(笑)。
 銀行改革の挫折はガエル・ジロー(1970年生まれのフランスの経済学者、数学者。イエズス会士でもある)をはじめとする経済学者によってちゃんと分析された。あの方向転換を考察して私が結論したのは、社会党の内部に正真正銘の「銀行寄り路線」があって、これが党内左派に対してのみならず、地方に地盤をもつ議員たちの大半に対しても立ちはだかっているということだ。

 あの改革を無効にしたのは、新進の社会党女性議員カリーヌ・ベルジェだった。
 この議員は、ウィキペディアを引用して言うと、議員になる直前までドイツの金融大手アリアンツ・グループの系列企業であるユーラーヘルス信用保険会社で働いていた。彼女を足し桁のが仲間のヴァレリー・ラボーで、この議員はソシエテ・ジェネラル銀行とBNPパリバの出身だ。この二人の女性は未来予見的なタイトルの本『栄光の30年(1945-1975年の高度経済成長時代をフランスではこう呼ぶ)は未来にあり』を共著で出している。
 ロスチャイルド銀行出身で、まだ年若いけれども大統領府の副事務長を務めているエマニュエル・マクロン(2014年8月組閣のヴァルス内閣で経済・産業・デジタル大臣に就任した)のような連中の名前を挙げることもできるだろう。
 これらの人物の過去は銀行システムの中にあり、2017年の大統領選挙と国民議会選挙以降、議会に社会党議員は一握りとなるみこみだから、彼らの将来も銀行システムの中にある。
 したがって、「マーニ・ブリーチ」(清潔な手、イタリアの諸政党に蔓延していた腐敗を明るみに出すためにミラノの検察庁が1992年に始めた捜査)の現代フランス版オペレーションなど、まさにスキャンダルだ。

 

 昨日も述べましたが、上記のようなオランド政権下のフランス政治の実態は、日本ではほとんどといってよいほど報道されておりません。日本には言論の自由が存在し、それに付随して報道の自由が存在しますが、その報道の自由には「報道しない自由」や「報道させない自由」もある、ということです。今回の痛ましいパリ連続テロ事件も例外ではありません(参考:パリ同時多発テロの現場を見た:日経ビジネスオンライン)。

 この章を読めば読むほど、フランス社会党のオランド政権は、日本民主党が政権与党時代の菅内閣とものすごく似ているように感じています。国難の事態に直面したこともさることながら、特にここで紹介されている金融機関がフランス社会党の議員活動を支えている話は、日本の脱原発問題において、電力労連が民主党の地方議員たちへの政治献金や集票活動に力を入れていたため、脱原発への動きが骨抜きにされた事例と瓜二つだと感じました。

 トッド氏はフランス社会党は2017年の選挙で大敗すると予測していますが、今回のシリア難民に紛れ込んだISによる同時多発テロ事件を招いたこと、その遠因となったシリアへの空爆表明の責任で大きく退潮、かわって難民の受け入れに制限を設けることを主張する極右勢力が伸張するように私には思われ、このトッド氏の予測は現実のものになりそうです。
 そして、EUの重要な理念である、EU域内であれば自由に国境を越えて人や物が往来できること、今回のテロ事件で弱点となってしまいました。そういう意味でもEUの共通通貨であるユーロは崩壊するというトッド氏の読みも的中するのではないかと考えられます。

Follow me!